選べなかった恋の続きを、君と紡いで


 それから一時間ほどして、汐月くんから「もうすぐ着く」という連絡があり、間もなくオートロックの共用インターホンが鳴った。玄関まで出迎えると大きなエコバッグを下げながら軽く笑う汐月くんが立っていて、その瞬間ホッとした。

 スーツを着ている時とは違い前髪はセットされていなかった。中学時代の時に近い重めの前髪、それからパーカーも相まってラフさが新鮮だ。

「来てくれてありがとう」
「ぜんぜん。急にお邪魔して悪い。食欲は?」
「少しだけ」
「よかった。おかゆ作るよ。キッチン借りてもいいか?」

 洗面所とキッチンを案内した後、汐月くんは買ってきてくれたものを作業台の上に並べ始める。

「あ、ゼリーも買って来てくれたんだ。ありがとう」

 りんご味がふたつ、オレンジ味がひとつ。全部違う種類なのかと思ったけれど、りんごだけがふたつあるのはどうしてだろう。特に深い意味はないのかもしれないけれど軽く首を傾げれば、汐月くんがハッと弾かれたようにこっちを見る。

「もしかして、もう好きじゃなかった?」
「え?」
「りんごのゼリー、中学の時好きだって言ってたから」

 その言葉に、記憶の群れが戻ってくる。

 中学時代、たしかに私は給食にりんごゼリーが出る度に喜んでいた。でも正直なところその話を汐月くんにした記憶はない。それくらい私にとっては些細な小さな思い出だったのだ。それなのに、汐月くんはしっかりと覚えていてくれたらしい。

「ううん、好き……嬉しい。でも覚えててくれたんだ」
「七瀬さん、ゼリーが出た日の放課後いつも話してくれたから」
「えっ、そうだっけ? な、なんか恥ずかしいな……」
「だから頭に残ってた」

 笑い合ったおかげか、気が抜ける。

「ありがとね」
「準備するから。七瀬さんはちゃんと寝てて」
「でも──」
「俺が来た意味ないだろ」

 苦笑した汐月くんが、寝室へと続くドアのほうを見る。たしかにこのままここにいたら逆に気を遣わせてしまうかもしれない。それに正直まだ少し頭が重かった。

「行かないなら、担いで運ぼうか」
「えっ!? どうやって!?」
「そこ? こう、肩に」
「米俵扱い……」

 ぷっと思わず吹き出してしまった。もしかすると、気を遣わせないようにしてくれているのかもしれない。お言葉に甘えておかゆができるまでの間、ベッドで休ませてもらうことにする。

< 19 / 74 >

この作品をシェア

pagetop