選べなかった恋の続きを、君と紡いで
もう一度お礼を言って布団に戻ったものの、なんとなく落ち着かない。
トントンとまな板に包丁が当たるリズミカルな音が心地よい。開けたままだった窓から風が吹き込んで、ふわりとレースのカーテンの裾を持ち上げる。刺繍された花柄が揺れ、ラグに華やかな光を散りばめる様子を見ていると心も和らいでいく。
けれど、安心感と同じくらい後悔が胸を覆っていた。
心細いなんて言って迷惑だったかもしれない。汐月くんは優しいから、気を遣って提案してくれただけかもしれない。熱で弱っていたからとはいえ甘えすぎたかな。やっぱり断ったほうがよかったかも。体調のせいか、自己嫌悪が強くなっていく。
頭は重いのに、自分の選択を悔やんでいるとなかなか寝つけない。しばらくの間、うとうとと夢と現実の境を行ったり来たりしていると、「七瀬さん」と名前を呼ばれた。ハッとして顔を向けると、開けたままだった寝室のドアのあたりに汐月くんが立っている。
「入ってもいいか?」
「あ、うん」
答えると、汐月くんが控えめに入って来る。こんな時でも律儀だな、と感心した。体を起こそうとすると、慌てたようにそっと背中を支えてくれる。
「おかゆできたけど、食べられそう?」
「うん。あ、おいしそう……」
「簡単なものだけど」
「そんなことないよ。すごく嬉しい」
サイドテーブルに置いていたスマートフォンを退けると、そこにトレイを置いてくれた。卵がゆの優しい黄色が、熱で潤んだ目に沁みる。もくもくと立ち昇る湯気にも気持ちが安らいだ。
いただきます、と手をあわせる。卵がゆのまろやかな味が喉からお腹の底へとゆっくり溜まっていく感覚にますますホッとした。湯気の向こうに目を細めた汐月くんが見える。
「すごくおいしい……」
「よかった」
「というか、すごく私好みの味……」
「七瀬さんの好みはわかるよ」
「えっ、すごい」
「いつも一緒に食べに行ってるから」
平然と微笑まれるけれど、一緒に食事に行って好みを知っているとはいえ、それを再現できるだろうか。そもそも相手の好みをここまで覚えてくれていることに感動してしまう。ゼリーのことといい、汐月くんの細やかさに目を瞠った。
「汐月くんってほんとに周りのことをよく見てるよね」
「そうか? そんなことないと思うけど」
「絶対そうだよ。ありがとうね、味わって食べる」
微笑むけれど、急に抱えていた申し訳なさが湧き上がってきて、レンゲを持つ手を戻してしまった。つい、うつむいてしまう。
「今日、来てくれてありがとう。ドタキャンしちゃった上に、看病までしてもらっちゃってごめんね」
「俺は七瀬さんが頼ってくれて嬉しかったよ」