選べなかった恋の続きを、君と紡いで
「長編の企画、通りましたよ!」

 あれから数日。喫茶店での打ち合わせに入るやいなや、大椛さんは弾んだ声で報告してくれた。編集長や部内の評判もよいらしく、無事にプロット制作にとりかかれることになった。

 よかった。修正の方向性は間違っていなかったんだ。意気揚々と企画の話を進めていく大椛さんの向かいで、話を聞きつつ、こっそりと胸を撫で下ろした。

「先生らしい作分というか、企画段階でリアルな人物像と恋愛模様がつくられていてドキドキしました! 舞台が京都なのもいいですよね。地元でしたっけ」
「そうなんですよ。今度取材を兼ねて帰省してきます」

 たくさん調べ、選び取り、しっかりと検討を重ねた。企画が通ったということは、これがちゃんと今の私が求められているものなのだろう。
 汐月くんに助けられて風邪が治り、強制的に心機一転できたおかげだ。

「そういえばこれ知ってます? 先生好きそうだなあって思ったんですよ」

 仕事の話がひととおり終わったところで、大椛さんがスマートフォンを取り出した。
 見せてくれたのは、文豪とコラボしたアフタヌーンティーのSNSだった。

「あ。実は週末行くんですよ」
「え、いいなあ!」

 私が熱を出したせいで延期になっていたのだけれど、汐月くんが予約を取り直してくれたのだ。

「もしかしてデートですか?」

 頬杖をついた大椛さんがニヤリとしたので、少しドキッとする。

「いえ、友だちと」
「なんだ。先生嬉しそうだったから、もしかしてと思っちゃいました」

 そんなに顔に出てたのか……。大椛さんに笑顔を返しながらも、内心恥ずかしくて顔から火が出そうだった。誤魔化すようにアイスティーのストローをくわえる。

「もしかしたら汐月さんとだったり~って思ったのに」
「えっ」
「え? ホントにそうなんですか?」
「あ、いや……」

 以前エレベーターで会った時、大椛さんが興奮気味に汐月くんのことを語っていたことを思い出すと、頷いていいのか迷ってしまった。いや、友だちなんだから一緒に出掛けることをここまで意識しなくてもいいはずだ。それでも返事をためらったのは、あの時と違い私の中に恋心が芽生えてしまっているからかもしれない。

「あの……汐月くんってそんなにモテるんですか?」
「モテますよ~!」

 曖昧な返事だったからつっこまれるかと思ったけれど、大椛さんは新しい話題に食いついてくれた。

「まあかっこいいですし、仕事もできるし。ただほんとーーーっに無駄話しないんですよ!」

 大椛さんがため息交じりに言いながら、カップを口に運ぶ。

「ご飯に誘っても、合コンとかに声かけてみても全部断られるって、営業部の同期が言ってました。もちろん仕事に必要なことは話してくれるんですけど、無駄話をしないっていうか……昔からそういう感じなんですか?」
「そうですね……あんまり口数は多い方じゃなかったかも」
「そうなんだ」

 大椛さんが残念そうに声を沈ませる。

「アフタヌーンティーって、たしか冬がテーマなんでしたっけ」
「そうみたいですよ。雪みたいなマカロン、すごくおいしそうでした」
「わー、いいな」

 大椛さんが想像を巡らせるように目を閉じながらうっとりする。

 名だたる文豪たちが遺した名作の中から、銀河鉄道の夜や雪国、津軽など、冬を感じる作品に焦点を当てた飲食物を提供してくれるらしく、既にSNSでも賑わっていた。

「アフタヌーンティー、楽しんできてくださいね」
「ありがとうございます」
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