選べなかった恋の続きを、君と紡いで
その週末。高層階にあるホテルのラウンジからは、晴れた空と街が一望できた。白を基調として整えられた品のある一人掛けの椅子に並んで座り、ウェルカムドリンクが入ったグラスを軽く持ち上げる。目の前には解放感のある窓があり、微笑む私たちを淡く反射させていた。
「何に乾杯する?」
「七瀬さんの全快と企画が通ったお祝い」
グレーのジャケットを身にまとった汐月くんが当然のように答える。
「嬉しいけど、私ばっかりもらってるよ。汐月くんは何かない? 最近……」
「なんだろう。……あ」
「なになに」
前のめりで聞いてみると、少しだけ言い淀まれた。
「昨日新規店舗との契約がとれた」
「すごい! じゃあ、そのお祝いもしよ!」
「いや、そんな祝うほどのことじゃ」
「あります!」
言い切ると、汐月くんが少しだけ照れ臭そうにグラスを持っていないほうの指で頬を掻いた。今度こそ乾杯してドリンクを楽しみ、雪をイメージしたという白いホワイトチョコがかかったスコーンをそっと割る。
「おいしい……!」
「こっちのゼリーもうまい。雪の結晶みたいにかかってるこのグレーの……なんだっけ」
「アラザン?」
「あ、それだ。きらきらしてていいな」
お互いの仕事の話、それから近況。いろんな会話が弾み、心の裡でホッとする。
好意を自覚した後に会うのは初めてということもあり、実は少し緊張していた。うまく目が見られるかな。変な反応しちゃわないかな。そんな張り詰めた気持ちがあったのだけれど、待ち合わせ場所で先に到着して待ってくれていた汐月くんを見つけた瞬間、全部吹き飛んでいた。
今までよりもきらきらして見えただけじゃない。ただ会えただけで胸が躍って、気づいたら今日のために買っていたネイビーのロングワンピースの裾を揺らしながら笑顔で駆け寄っていたのだ。
たくさん話したい、もっと知りたい。
これまで以上にそんな気持ちも膨らんでいたからか会話も途切れることがなかったし、顔を見たいという気持ちが先行して目も見ることができた。
「体調、戻ってよかった」
「うん、おかげさまで。その節はありがとう」
氷のような青く透き通ったジェルがかかったゼリーを、ゆっくりと口に運ぶ。
「仕事はそろそろ忙しい? 年末も近いもんね」
「そうだな。この時期は本が売れやすいから、最近は書店を回って施策を一緒に考えたりしてる」
「おお……! いや、作家の立場からするとホントにありがたい話だよ」
「そういう言葉を聞けるのが一番嬉しいよ」
汐月くんが噛み締めるようにつぶやく。
「すすめた漫画を書店員さんが売ろうとしてくれたり、実際に売れて作家さんが喜んでたって担当経由で聞いたり、やっぱりそういう時に一番やりがいを感じるから」
静かな声。けれど、語る瞳は情熱的に輝いている。
今日だけじゃない。仕事の話をする時の汐月くんはいつもこんな様子だった。
以前安定を選んで就職したと言っていたけれど、真摯に向き合い、向上心を持っていることが話からも伝わってくる。大椛さんも「仕事ができる」と褒めていたし、周囲からも仕事に真面目に向き合っているという評価なのだろう。
図書委員をしていた時も同じだった。一緒に読書週間に向けたPOPを作ったことが懐かしい。