選べなかった恋の続きを、君と紡いで
「そういえば、この前七瀬さんがすすめてくれた小説読んだよ」
「読んでくれたの!?」
「うん、面白かった。ずっと夢中で読み進めてたけど、ラストで伏線が綺麗に回収された時はぞくっとしたよ。ああいうどんでん返しミステリーってやっぱりいいな」
「そうなの! あの作家さんは思いもよらない展開を考えるのがうまくて……!」
本の面白さを語っていた途中で汐月くんと目が合い、ハッと言葉を止めた。私を見つめる表情があまりにもにこにこと嬉しそうな顔で柔らかい。
目を見て話せると思ったけれど、こんなふうに微笑を向けられるとドキっとしてしまう。
「ご、ごめん。一人で盛り上がっちゃった……」
「いや、楽しいなと思ってたんだ。七瀬さんのこういうところ、昔から憧れてたから」
「え、ええ……」
気恥ずかしくて紅茶に逃げると、汐月くんが「本当に」と言葉を続けた。
「好きなものに一直線で、目の前のことに向き合って輝いてる。そういうところ、いいなって思うよ」
「……私は」
スコーンを割る長い指先を見つめながら切り出す。
「汐月くんの、目の前のこととか人に誠実に向き合う姿勢を尊敬してるよ。昔も今も」
「……ありがとう」
汐月くんは少し目線を揺らし、戸惑ったようにしながらも、嬉しそうにはにかんだ。
「ミステリー好きなんだな」
「うん、結構読むね」
「書いたりはしてない?」
「あー……言われてみれば」
そういえば、書いていないな。
最近仕事では求められている正解を探すことが多かったからか、よくよく考えてみるとあまり意識したことがなかったかもしれない。なぜか胸底が、波紋を広げるようにざわめいた。
「私も汐月くんのおすすめのクッキー屋さん行ったよ。すっごくおいしかった! 特にアールグレイ味が好きだったかな」
「よかった。あそこは全部間違いない味なんだ」
お互いの近況を話しているうちに、いつの間にか時間が経っていた。窓の向こう――高く見える空が少しだけ色を変え始めている。
「この後、どこか行きたいところある?」
「ちょっとだけ本屋に寄りたいんだけどいい?」
「もちろん」
「汐月くんは行きたいところある?」
「実は俺も本屋に行きたかった」
「じゃあ行こう。他にもあったら教えてね」