選べなかった恋の続きを、君と紡いで
そんな会話をしながら残りの時間を満喫した後、汐月くんの提案で駅近くの大きめの書店へと向かった。
入るとすぐに紙の匂いに包まれて安心した。
休日ということもあり書店内は多くの人で賑わっている。もちろん皆静かに、思い思いに本を選ぶ時間を楽しんでいるけれど、とにかく人の数は多かった。書店離れが叫ばれている今、こうしてたくさんの人が本を求めている瞬間を見ると胸がいっぱいになる。
「あ」
話題の本コーナーに立ち寄ると、そこには少し前に発売した、私も参加したアンソロジーが置かれていた。尊敬している作家さんや同じくらいにデビューした作家仲間とともに自分の名前が並んでいて、初めて見本誌を手にした時の高揚感が蘇ってくる。
「あ、七瀬さんの名前だ」
汐月くんの声が明るい。
「青春恋愛をテーマにしたアンソロジーで大椛さんが声をかけてくれたんだ。装丁、きらきらしてて綺麗だよね」
「うん、内容にも合ってる。七瀬さんが書いてたバスケ部の話、すごくよかった」
「え、読んでくれたの!?」
あまりにもさらっと言われたものだから、素っ頓狂な声が出てしまった。
「七瀬さんの本は読んでる」
「……は、初耳」
「そうだったっけ」
汐月くんが軽く首を傾げる。物言い的に、特に言及せずとも当然のこと……と言いたげで、喜びと恥ずかしさでどう反応してよいのか困ってしまう。
でも、素直にこみ上げた喜びを伝えたいと思った。
「ありがとう。まさか読んでくれてると思ってなくてすごく嬉しいよ。それに、この本もこんなに目立つところに置いてもらえて感無量だよ。書店員さんもだけど、汐月くんとか営業さんのおかげもだね」
「素敵な話を作る七瀬さんたちがいてこそだよ。俺たちはそれが売れるようにすることが仕事だから」
あ……と大椛さんの顔が浮かんだ。
「大椛さんもいつもそう言ってくれるんだ。一緒に作ってくれる人が傍にいるのってホントにありがたいよ」
「七瀬さん、大椛さんのこと信頼してるんだな」
どうやら自然と声が弾んでいたらしく、汐月くんが目を細めた。
「うん。大椛さんは最初に声掛けてくれた時からすごく私の本を売ろうとしてくれてて……」
デビュー作以降売れることができず、SNSでも一発屋だと揶揄された。苦しく行き詰まっていた頃だったからこそ、大椛さんの言葉はありがたかったし心強かった。
このアンソロジーは、私が世間で評価されたデビュー作と同じ恋愛の話を集めている。声を掛けてもらった時も書いている間も嬉しかったし楽しかった。持てる力は出し切ったし、読者から感想をもらった時は胸がいっぱいになって涙を流したことを昨日の出来事のように思い出せる。
だからこそ、今度の長編も成功させたい。また誰かの心を打つ物語を届けたいし、大椛さんの恩に報いたい。同じ恋愛をテーマにした作品だし、きっと大丈夫……。
プレッシャーのせいか、思わず視線が本に落ちる。顔を伏せてしまっていたことに汐月くんからの視線で気づき、我に返った私は慌てて「他のコーナーも見ようか」と笑顔を作った。