選べなかった恋の続きを、君と紡いで


 ファンレターや大椛さんを通しての感想、SNSでの言葉ももちろん嬉しい。ただ目の前で読者の反応を見られることはなかなかあることではないので鼻の奥がツンとしてしまう。

「そうだ。汐月さんから提案された売り場の売り上げ、調子いいよ。ありがとうね」
「本当ですか。よかったです」

 汐月くんの表情がわかりやすく解けた。その瞬間、心臓がとくんと甘く鳴ったような気がしてそっと胸を押さえる。

 汐月くんのこの、ふいに垣間見える自然な笑みが好きだと思った。アフタヌーンティーで仕事の話をしてくれた時のことを思い出す。やっぱり真摯に向き合っているんだろうな。

「また来週、伺いますね」
「ああ、ありがとう。今日もシフト入っててよかったよ~。あ、もしかして知ってて会いに来てくれた?」
「お顔を拝見したかったので」
「嬉しいこと言ってくれるなあ」
「店長~」

 遠くから佐々木店長を呼ぶ店員さんの声がした。

「ああ、今行くよ。七瀬先生、汐月さん、また。七瀬先生、よかったらサイン会などお願いしてもいいですか?」
「はい、もちろんです。ぜひ」
「よかった。それじゃあ担当さんに相談してみますね。では、慌ただしくてすみません」

 佐々木店長がバタバタと去っていくと、汐月くんが私のほうへと笑みを向ける。

「サイン会のこと、俺からもそっちの部署の営業担当に相談してみるよ」
「ありがとう」

 そこまで答えたところで、ハッと気づく。

 もしかして人脈作りの一環もあったのだろうか。話を聞いている限り佐々木店長のシフトも把握していたみたいだし……。

 小説と汐月くんが所属する漫画部署は管轄が違うから、普段直接関わることはない。自惚れかなと一瞬思ったけれど、それ以上に今日までたくさん汐月くんのさりげない気遣いに触れてきた身としては他の考えが浮かばなかった。

 汐月くんの優しさの形はいつも控えめで、それでいて芯まで温かい。

「……汐月くん、ありがとう」
「え?」
「佐々木店長さんとお話する機会を作ってくれて」

 汐月くんは特に深く肯定も否定もせず、ただ嬉しそうに口元をほころばせた。自分のためじゃない。間違いなく、私や佐々木店長のことを考えてくれている反応だった。胸がきゅんとする。

「すごくやる気出てきた」
「じゃあ、今からどこかで書く?」

 どこか悪戯っぽく微笑まれる。

「ううん、いまは汐月くんとの時間を楽しみたいから」
「嬉しいこと言ってくれるな」
「佐々木店長と同じこと言ってる」
「うん、いい人だから真似してみた」

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