選べなかった恋の続きを、君と紡いで
「あ。心配しなくても部屋は別々でとるから……!」
考え込んでいると、汐月くんが慌てたように声を上げる。
「あっ、だ、だよね!?」
「さすがに一緒はまずいから」
ちくりと胸が軋んだ。
私一人だけが意識してしまっていることもだけれど、友情の中の性別の壁を感じてしまい、寂しさが芽生える。仕方ないことなんだけど……。いや、一緒に旅行に行けるだけで嬉しすぎることだと思い直す。
ホテルが無事にとれたので、相談し合いながら再び歩き始めた。
「あ……」
駅の中にある小さな花屋を通りかかった時、ふと懐かしい記憶が呼び起こされた。
中学一年の冬。汐月くんと一緒に帰宅している時、帰り道のとある家の花壇に美しい花が咲いていた。最初はバラかと思ったけれど、よく見るとほんの少し違う気がした。汐月くんに聞き、クリスマスローズだと教えてもらったのだ。
バラではないこと。実は毒があること。寒い冬を耐え忍ぶ強さがあるしなやかで美しい花であること。そんなことを教えてもらい、汐月くんの知識の深さと初めて得た学びにドキドキと鼓動を高鳴らせたのだ。
「そういえば、汐月くんって花好きじゃなかったっけ。見る?」
なにげなく聞きながら隣を見た瞬間、目を瞬かせてしまった。
並んだ花を眺める汐月くんの横顔が、どこか切なさと諦めをまとっていたから。
「昔は……そうだな、たしかに好きだった」
足を止めた汐月くんが、遠い目をする。踏み込んでいいことなのかわからなくてただ静かに頷きを返した。
「うちの両親さ、厳しくて」
店先に並んだ白い花に送られたのは、物憂げな視線だった。言葉の続きを待つように立ち止まってその隣に並び、汐月くんの横顔を見つめる。
「ゲームとか漫画とかそういう娯楽も制限されてたんだけど、とにかく勉強に必要のないというか――親にとって不必要、不正解だと思うものに対して厳しかったんだ」
その言葉に、中学時代スマートフォンを持っていなかった汐月くんを思い出した。
「……先輩にもらった花の種をベランダで育てたことがあって。最初は親にそんなことしてる暇があったら勉強しなさいって言われたんだけど、せっかくもらったし、俺も育てたかったから。図鑑や本を読んで育てたつもりだったんだけど、運悪く台風が来て。耐え切れなくて枯らしちゃった花を見て、『ほら、言った通りでしょう』って言われた。それ以来、なんか育てるのが怖くなったんだよな。また俺が枯らしたらって思うと尻込みしちゃうというか。情けないけど」
長いまつ毛がゆっくりと伏せられる。硬い声で語られる話に、胸がぎゅっと塞がれるような思いがした。
白い花を映す眼差しは焦がれるように揺れている。その横顔は、花が嫌いになったというふうには全く見えなかった。枯らしたら怖いという言葉からも、汐月くんの誠実な性格を感じ取れる。
憶測にすぎないけれど、もしかすると本当はもう一度……育ててみたいと思っているんじゃないだろうか。
「ごめん、暗い話した」
「ううん」
汐月くんがこっちを見ながら眉を八の字にした。
話してくれたこと自体は、信頼を感じて素直に嬉しい。でも、それは今口にしなくていい気がした。
以前なにげなく仕事の悩みを打ち明けた時、深入りせずにさらりと受け止めてくれたことが胸に残っていた。
「私、何か育ててみようかな」
「え?」
「実は部屋に緑がほしいなーって思ってたんだ」