選べなかった恋の続きを、君と紡いで

 まずはオオサンショウウオを見て、ペンギンのご飯タイムを見て、私たちはアザラシの水槽コーナーへとやって来た。丸いアザラシが気持ちよさそうにすいすいと泳いでいる。

「かわいい……! あ、来てくれたよ!」

 水の上に鼻先だけを出しているアザラシは、なんだか笑っているように見える。

 癒されているとパシャっと音が響いた。振り返ると、汐月くんがスマートフォンを構えて微笑んでいる。

「撮った?」
「うん、七瀬さんが楽しそうだから。綺麗なものは残しておきたいし」

 その言葉に、思わず固まってしまった。汐月くんはそれに気づかず、悠々と泳ぐアザラシの水槽を眺めている。じわりじわりと顔が熱くなった。

 綺麗って言った? いや、私じゃないかも。アザラシのことかも。でも、私が楽しそうだからって言った……よね? 一人頭の中で言われた言葉を繰り返しては、自制して、つい浮かれてしまう。

「えっと、今撮ってくれた写真見てもいいかな?」
「もちろん」

 スマートフォンを手渡されたので覗き込む。そこには幸せそうな雰囲気をまとい、自然体の笑顔を浮かべる私が映っていた。

 私、こんな顔するんだ。初めて見たかも……。普段から自分のことをそんなにじっくり見ているわけではないけれど、こんなふうに全身で楽しいと表現している写真に驚いてしまう。

 アザラシに癒されていたのは間違いないけれど、きっと汐月くんと一緒にいるから。間違いなく舞い上がっているからだ。

「汐月くん、写真上手だね。撮るの結構好き?」
「……言われてみればそうかもしれない。好きとかあんまり考えたことなかったけど、今はすごく楽しいよ」
「写真係申し出てくれたもんね」
「無意識だった」

 汐月くんが顎に手を当てて、うん、とひとつ頷いた。

「好きなのかもな」
「じゃあ、今回はいっぱいお願いします」
「ああ、任せて」

 いつも私の好きなことを一緒に楽しんでくれている汐月くんの好きなこと。それを知ることができてつい頬が緩んでしまった。

「七瀬さんはアザラシ好き?」
「うん、好き。実はうちの実家の猫にもちょっと似てる」
「ああ、ルル」

 以前ご飯を一緒に食べた時にちらっと話したことを覚えていてくれたらしい。先日お母さんが送ってくれた最新の写真を見せると、汐月くんの口元がほころんだ。

「次、どこ行こっか。イルカショーもあるみたいだし、この先はクラゲエリアだって」
「七瀬さんは?」
「私、実はどっちも気になってるんだよね」
「じゃあ、順番に行こう」

 まずはクラゲエリアへと向かう。透明な水の中に透き通ったクラゲがふよふよと浮いている様は、まるで深海に迷い込んだみたいだ。

 子どものクラゲ、大きなクラゲ、赤いクラゲ……ゆらりゆらりと漂うクラゲは、丸く、触れたら壊れてしまいそうだった。その儚さはまるで海に浮かぶ月のようで、不思議な気持ちになる。

「おかあさん、クラゲってフローフシなんだってー!」

 小さな子どもがすれ違いざまに発した言葉に、えっと声が出る。

「クラゲって不老不死なの? 汐月くん知ってた?」
「ああ、聞いたことあるよ」

 たしか……と汐月くんが軽く視線を上に向ける。

「ベニクラゲっていう赤いクラゲのことなんだけど。正確には不老不死というより若返る力があるんだ」
「若返り」

 うん、と汐月くんが首を縦に振り、赤いクラゲを見つめた。

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