選べなかった恋の続きを、君と紡いで
「人間とか他の生き物ってどんどん年を取っていって、最終的に死に向かうだろ? けど、ベニクラゲは体の細胞をリセットしてポリプって呼ばれる赤ちゃんの状態に戻れるんだ」
「へえ……! すごいね。それって何度でもできるの?」
「今のところはそう言われてるな」
「死なないわけではない?」
「うん、死はある。例えば天敵の魚に食べられたりしたらふつうに死んでしまう。だから不老不死っていうよりは、やり直しができる生き物っていうのが正しいんじゃないかな?」
まるで物語の中に出てくるような神秘的な話に、つい感嘆の息がこぼれる。
「さすが詳しいね」
「たまたま本で見たことあって」
そういえば中学の時、図鑑をよく読んでいた。
「すごいよな。人間には無理なことだから尊敬する」
汐月くんがガラスの向こうで泳ぐクラゲを見つめる。暗い水槽に私たちの顔が反射した。
「人間もやり直せるんじゃないかな?」
「え」
汐月くんが小さく目を見開きながらこっちを見る。
「あ、クラゲみたいな若返りは無理だけど。命じゃなくて人生って意味だったらどうにかなるのかなーって。環境とか条件はあると思うけど、何歳からでも、どこからでも挑戦したり方向転換したり、できなくはないし。だから人間みたいだなーってちょっと思ったよ」
「……」
「な、なんか変なこと言った?」
反応がなく不安になってあたふたしていると、汐月くんがぷっと吹き出した。淡い光に照らされた表情は呆れたり困ったり、訝し気なものじゃない。
まるで子どもが初めて好きなものに出会った時のように純粋に目を輝かせていた。
「前向きな七瀬さんらしいな。そういうところ素敵だと思う」
「……えっ」
続いた言葉があまりにもストレートだったから、また小さな声が漏れてしまった。けれど、汐月くんは茶化すことなく目を細める。水槽の中でクラゲがゆらゆらと揺蕩う。
やっぱり、汐月くんは心臓に悪い。
なんだか顔が見られなくなってクラゲばかり見つめていると、汐月くんが顔を覗き込んできた。驚いて息が止まりそうになる。
「照れてる?」
「て、照れるでしょ、それは……!」
「でも、事実を言っただけだから」
汐月くんがくつくつと笑うから、えいっと腕を軽く叩いてみる。汐月くんが大げさに痛がる真似をしたから二人で笑った。真面目な話も、こういう冗談めかした話もできる関係が心地よい。
「私もね、さっき汐月くんの言葉にハッとしたんだ」
「俺の?」
「うん、駅の話をした時に変わることに対してポジティブな意見を持ってた汐月くんのことを素敵な考えだなって思ったよ。だからクラゲを見て自然と前向きな気持ちが出てきたのかも」
さっきまでは私も、自分の進化に対して、少し不安を抱いていたのだ。
「……そっか」
「あ、照れてる」
「照れるだろ」
汐月くんは頬を隠すように、手の甲を頬に当てる。くすぐったい空気が流れてまたどちらからともなく微笑み合った。
「お客様~」
スタッフさんに声をかけられてハッと我に返った。
「あと15分ほどで次のイルカショーが始まるんですが、よければいかがですか?」
「せっかくだし見る?」
「見よう」
そう答える汐月くんの声が弾んでいたから、同じように楽しんでくれているのだと実感して嬉しくなった。スタッフさんにお礼を言い、イルカショーがおこなわれるエリアへと案内を受ける。
「デート楽しんでくださいね」
スタッフさんとの別れ際、笑顔で言われて固まってしまった。
デート。そっか、デートに見えてるんだ。