選べなかった恋の続きを、君と紡いで
「行けそう?」
「うん、お待たせしました」
「ぜんぜん」
歩き出してすぐ、汐月くんが私の歩幅に合わせてくれていることに気がついた。
頭に残った〝俺の彼女〟という言葉に、まだ胸がドキドキと高鳴っている。
以前一緒に書店に行った時は、相手が仕事の関係者だったとはいえ『大事な友人』という紹介だった。あの時とは状況が違うしナンパを追い払うためだとわかっているのに、耳のあたりまでじわじわと熱くなってしまう。素直に嬉しい。
本物だったらいいのに。本当に恋人だったら……。
〝デート〟と評された時以上に、心が勝手な期待で埋め尽くされていく。それくらい、汐月くんの声で聴いた〝彼女〟という言葉の破壊力はとんでもなかった。
高まり続ける気持ちを落ち着かせるように周囲を見回していると、小さな子どもがこっちに走って来るのが見えた。その瞬間、汐月くんが持っていたバッグをさっと子どもに当たらないような高さまで持ち上げていて胸がきゅんとする。
汐月くんのこういうさりげない気遣いや優しさが好きだ。
「七瀬さん? 足、疲れた?」
「だ、大丈夫!」
気持ちをしずめようとしていたはずなのに、さらに胸をときめかされてしまった。誤魔化すように口を開く。照明が暗くて本当によかった。明るいところだったらこの真っ赤な顔を見られていたかもしれない。
ドキドキしたまま、今日のために買ったブーツの爪先に視線を落とす。
「さ、さっきの子が持ってたぬいぐるみ可愛いなあと思って」
「ああ、アザラシの。買う?」
「そうだね……!」
実際にかわいいと思ったのは事実だけれど、半分ははぐらかすための口実だった。
他にもお土産を見ようと話をしながらイルカショーの会場へ向かう間になんとか頬の熱も引く。水しぶきを浴びながら飛ぶ快活なイルカのショーを楽しみ、真珠取り出し体験に白熱し、お土産屋を回って水族館をめいっぱい満喫した。
水族館を出ると、街には少しだけ夕方の気配が漂っていた。ついこの前まで暑かったのにいつの間にか日が短くなっていて、空気には確実に冬の兆しがにじんでいる。
公園を散歩した後は、繁華街で食事をした。鴨川沿いの店は落ち着いた雰囲気の中で京料理が楽しめ、店員さんの方言に癒された。もう地元の友達や家族と話す時以外はすっかり方言が抜けてしまったけれど、こうして懐かしい言葉の海に浸っていると心が凪いでいく。