選べなかった恋の続きを、君と紡いで
 誘われて向かったのは、ホテルの中にある小さなテラス。宿泊客しか入れない場所だからか、夜遅い時間だからか、数人が風に当たりながら思い思いの会話を楽しんでいる。

 自販機で買ったノンカフェインのアイスティーを手に、ベンチに腰掛ける。水滴が手を濡らした。

「気持ちいいね」
「ああ。この時期が一番いいかも」

 夜の街を眺めながら私はアイスティー。汐月くんはお茶のボトルを掲げて軽く乾杯する。灯台のように夜の街並みを照らすタワーが少し遠くに見えた。

「今日ありがとうね。すごく楽しかった」
「よかった」

 汐月くんが、目を細める。

「俺も。すごく笑ってばかりだった」
「楽しんでくれて嬉しいよ。写真もたくさんありがとね」
「また東京に戻る頃にまとめて送るよ」
「楽しみにしてる」

 お茶を飲む横顔をちらりと見る。すっと通った鼻梁。長いまつ毛。ベンチの足元に設置された淡い照明に照らされた姿がなんだか色っぽくてドキドキしてしまう。

 熱を持つ頬を冷ますような風がびゅうっと吹き抜けた。

 テラスに来たばかりの時はアルコールが残っていたこともあってアイスティーを選んだくらいだったけれど、そろそろ寒くなってきたかもしれない。

 袖を伸ばそうとすると、汐月くんがおもむろにジャケットを脱ぎ始める。そして、それをそっと膝の上にかけてくれた。

「ありがとう……」

 目を瞬かせつつお礼を言うと、汐月くんが微笑を返してくれた。胸の底にまた〝好き〟の波紋が広がった気がした。ほんの少しだけぬるくなったアイスティーから、ぽたりと水滴が落ちる。

「今日撮った写真、観る?」
「観たい」

 汐月くんがスマートフォンのカメラロールを見せてくれる。アザラシの笑顔、飛び上がった瞬間のイルカ、公園と少し色が残った紅葉のコントラスト。夕食の湯葉刺し。夜の繁華街。そして私の笑った顔。

「やっぱり写真うまいね。これとかすごく好きだな」
「資料に役立つといいんだけど」

 タワーと電車が一緒に写った一枚を指すと、汐月くんがくすぐったそうに長いまつ毛を揺らした。昼間も交わした会話だけれど、その時よりも声に嬉しさが乗っているような気がする。

 でも、気づけば私ばかり写真におさまっている。

 今日私も汐月くんを撮ろうとしたけれど、「恥ずかしいから」と顔を隠されてしまった。せっかくなら思い出のひとつとして一緒に写ることができたら……。なんて願望が頭をもだけたけれど、本気で嫌なのだとしたら無理強いはしたくない。

 心の中で悶々としていると、汐月くんが軽く顔を上げた。

「Scusi!」

 その声にハッと視線を上げると、外国人と思しき男性と女性が立っていた。二人は困った顔をしながら、身振り手振りを使って私たちに何かを問いかけている。英語じゃない? どこの国の言葉だろう。

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