選べなかった恋の続きを、君と紡いで
返事をしたいのに頭が真っ白になっていると、汐月くんが右側のベンチを丁寧に手で示した。そのまま同じような言語でいくつか言葉を返すと、ふたりはぱあっと笑顔になる。
「È stato di grande aiuto. Grazie.」
「È stato un piacere.」
「アリガトウゴザイマス!」
ふたりはニコニコと日本語でお礼を言ってから、すぐ隣のベンチに腰を下ろした。こそっと汐月くんに声をかける。
「あの……ごめん、あのおふたりなんて言ってた?」
「ああ、『宿泊客なんだけどここは自由に使って大丈夫なのか』って。だから問題ないって伝えたんだ」
「そうだったんだ! えっと、イタリア語……で合ってる?」
「合ってるよ」
首を縦に振った汐月くんが、控えめに口元をほころばせた。
「汐月くん、イタリア語もわかるんだね。すごい」
「少しだけだよ。大学の時、留学生の友達がいたから……たまたまわかる単語でよかった」
「へええ……!」
だからといって日常会話ができるのはすごいことだ。
無知な自分が恥ずかしいけれど、それ以上に汐月くんに対する尊敬の念が湧き上がる。さらっと案内する姿も、ふたりがホッとした様子を見て安堵していた横顔も格好良かった。思い返せばあのふたりが声を掛けてくれる前に気づいていた様子だった。
たしかに言葉数は少なくない。けれど、汐月くんは昔から困った人を見捨てない。こうしてさらっと手を貸すような人だった。
中学の頃の記憶が蘇る。あれは中学一年のちょうど今頃……汐月くんと一緒に休日に図書館に行った帰りのことだった。