選べなかった恋の続きを、君と紡いで
「――七瀬さん?」

 汐月くんの低さを増した声が、私を過去から今へと引き戻す。

 あの後ご夫婦が運営スタッフさんに伝えてくれたおかげで、お母さんとマナちゃんは無事に合流でき、お母さんからは何度もお礼を言われた。マナちゃんの妹が突然走り出し追いかけた結果、人混みではぐれてしまったらしく、「マナちゃんは迷子になったら動かないでね」と言われていたことを忠実に守っていたらしい。あの時の深い安堵が呼び覚まされた。

 とはいえ改めて好きだと思ったことは気恥ずかしくて言葉にできないので、くすぐったい気持ちを抱えたまま後頭部を掻く。

「懐かしいこと思い出してたんだ」
「懐かしい?」
「うん、中学の時のこと。迷子の女の子をお母さんのところまで連れていったこと覚えてる? ほら図書館の近くで……」
「ああ」

 思い至ったらしく、汐月くんが首肯した。当時に思いを馳せるように軽く目を伏せてから、濃紺の夜空を見上げる。

「普段子どもと関わる機会がなかったからすごく緊張してたっけ。正解かな、大丈夫かなって」
「そうなの? ぜんぜん見えなかったよ。マナちゃんも懐いてたし……汐月くんって変わらず優しいなって思ってたんだ」
「いや、それを言うなら、あの時迷わず声をかけた七瀬さんだろ」

 汐月くんは迷うことなくそう言い切る。まっすぐな目で褒められて、なんだかたじろいでしまった。

「えーっと、お互いさまということで?」
「なんか俺たちこういう話多いな」
「たしかに」

 以前も真剣にお互いを褒め合ったことを思い出して、同時にふふっと肩を揺らした。褒め言葉は照れ臭い。けれど受け止めたいと思うのは、汐月くんの言葉がお世辞やその場しのぎではないとわかるからだと思えた。

 あの頃から変わらないところ。新しい一面。いろんな汐月くんを知った夜の空気を、柔らかな風が運んでいった。
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