選べなかった恋の続きを、君と紡いで
 翌日のスケジュールは、いくつかの神社仏閣への参拝だった。レンタカーを借りて、汐月くんの運転に揺られながら広い道を進んでいく。

 地面に落ちた葉の塊が風で舞い上がる様子は、冬の訪れを感じさせる。

 少しだけ開けた窓から爽やかな空気が入り込んできて、心地よさに目を眇める。隣を見ると、汐月くんの艶やかな黒髪が揺れていた。窓の向こうに広がる晴天とキャメル色のコートと相まっていつにも増して爽やかだ。

「運転してくれてありがとう」
「ぜんぜん。ナビは任せた」
「任せて! カーナビより先に案内する」
「はは、言ったな?」

 軽口を叩き合いながら、車は冬の始まりの街を進んでいく。

 汐月くんの運転は穏やかで、急ブレーキもないし曲がる時も丁寧で、冷静で落ち着いた性格を表しているようだった。真剣な横顔を見ているとドキドキしてしまったので、慌ててフロントガラスに視線を戻す。

 まずは一番の目的地だった神社の駐車場に車を停め、木々が生い茂る参道を進んでいく。ここは紅葉の始まりが少し遅いらしく、まだ一部の葉が鮮やかに色づき始めるところだった。

 緑とオレンジ、赤。コントラストが美しい石の道を照らすように、木漏れ日がきらきらと揺れた。空が高い。少し冷たい風が吹き抜けて、葉をざわめかせる。

「気持ちいいね。マイナスイオン……普段パソコンばっかり見てるから癒されるよ」
「わかる。たまに仕事中に公園で立ち止まりたくなるんだよな」
「わかりすぎる。今度ピクニックもしたいね」
「いいな、それ」

 汐月くんの爽やかな笑顔には、今目の前に広がっている緑がぴったり似合う気がした。

 鳥居の前で一礼して、まずはお参りをする。それからおみくじを引き、お守りを買うことになった。

「あれ。これって七瀬さんが好きって言ってた小説?」
「あっ、ほんとだ!」

 どうやら期間限定でコラボをしているらしく、社務所の入り口には、見覚えのあるキャラクターたちのイラストが描かれているポスターが飾られている。日本だけではなく外国でも人気が高い作品だからか、観光客らしいたくさんの人々が写真を撮っていた。

「俺まだ読んだことないんだけど、どんな話?」
「高校生の幼なじみ4人組が日常の中にひそむちょっとしたミステリーを解決していく話だよ。あるある! って共感する謎もあるし、意外とどんでん返しの結末もあったり面白くて」
「前も話してたけど、先が読めない展開が好き?」
「うん、好き! だから、映画とか漫画もネタバレなしで新鮮な気持ちで楽しみたいかなぁ。もちろん読み直したい作品とか何度か読んで味わい深くなる作風も好きなんだけど、初見の感想をすごく大事にしたいのかも」
「なるほど。少しわかる気がする」

 汐月くんが頷く。

「いつか読んでみたいな。七瀬さんのミステリー」

 なにげなく。話の延長でさらりと言われた言葉に目を瞬かせた。私が書いたミステリー。たしかに好きだけれど、以前本屋でも思った通り書くという発想まで至らなかった。自分が書くよりも面白いものが世には溢れているし、そもそも私が求められている方向性はこれではないと思っていたから。

 でも……。頭の中に、ふわっとアイディアが浮かんでくる。今書いている長編にミステリー要素を加えてみたら読み味が変わってくるかもしれない。大きな事件ではなく日常の謎。それこそ恋愛と小さなミステリーを組み合わせるのも面白いかもしれない。

 そこまで考えて、すぐに思い直す。今の長編は既に企画が通っている。そもそも求められているものにたどり着くことさえも時間がかかったのだから、まだこんな願望を抱く段階じゃないかもしれない。

 でも、いつか書けるだろうか、私にも。

「いつか挑戦できたらなって思うよ」
「楽しみにしてる」

 曖昧に笑みを作ってみせると、汐月くんも微笑み返してくれる。

 汐月くんと話していると、いつも頭の中が整理される気がする。今までたどり着けなかった思考を引き出してくれる。


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