選べなかった恋の続きを、君と紡いで


 十二月の中旬、クリスマスイブ。

 あんなにも世界を色づけていた紅葉は瞬く間に終わり、葉を落として寒そうに見えていた木には色鮮やかな光が灯っていた。

 仕事終わりに汐月くんと待ち合わせをして、一緒に食事を楽しんだ後、約束していたイルミネーションが綺麗な並木道を訪れる。近くでクリスマスマーケットしていたので、ホットワインを買って、飲みながら歩くことになった。

「すごい。綺麗だね」
「なんか水族館を思い出すな……」
「わかる! 深海にいるみたいな……穏やかで、不思議な気持ちになるよ。クラゲになった気分かも」

 青く輝く光の世界。まるで海の底からゆらゆらと太陽の光を眺めているような幻想的な気分に浸りながら、輝く木々を見上げつつ歩いた。

「水族館といえば、コーヒーありがとな」
「こちらこそ。これ、今日もつけてるよ!」

 落としたら怖いのでポーチにつけたあざらしのマスコット。バッグを軽く開いて見せると、汐月くんが嬉しそうに目尻を下げる。
 ぬいぐるみのお礼にと渡したコーヒーも喜んでもらえてホッとした。

 行き交う人たちは皆それぞれはしゃいで写真を撮ったり、仲良く寄り添ったり、思い思いにイルミネーションを楽しんでいる。家族連れ、友人、カップル……いろんな関係性の人たちがいるけれど、私と汐月くんはいったいどんなふうに見えているのだろう。水族館に行った時のようにデートだと思われていたら……。

 隣を歩く汐月くんを見上げてみると、視線を感じたのか「ん?」とこっちを向いてくれる。

 目が合うだけでドキッと胸の奥が反応したのがわかる。気恥ずかしくて、ついパッと目を逸らしてしまった。

「今日、忙しかったのにありがとうな」
「こっちこそ。年末進行どう?」

 急に視線を逸らして不審がられるかと思ったけれど、汐月くんはふつうに話を継いでくれた。私も気持ちをしずめるように、平常心で隣を見ながら応えた。

 お互い年末進行でバタバタしていること、最近食べたおいしかったものの話。日々のことを話しながら歩いていると、ちょうど通りかかったベンチが空いていたので座ることになった。腰を下ろすところに葉が落ちていたのを、汐月くんが優しく払ってくれる。

 ここ数日、忙しかったのは本当だった。

 正直日常生活に手が回らないほどで、デスクには資料で使った本が積み上がったままだし、今日のために買ったスカートが入っていた段ボールもそのままだし、今の部屋は汐月くんには到底見せられない荒れ具合だ。それでも、楽しみがあれば日々は乗り超えられる。

 今日の約束があったからこそ、無事に迎えられた。それを伝えるか伝えないか、迷うより先に口が動いていた。

「忙しかったのは忙しかったし正直まだ山場中なんだけど。でも、今日が楽しみだったから。乗り超えられたよ」

 口に出してすぐ、少し恥ずかしくなってしまった。

「それは……うん、俺も」

 けれど、まるでリボンが解けるように柔らかくなった汐月くんの笑みを見た瞬間、羞恥心はすぐに吹き飛んでしまった。

 そっか、同じ気持ちだったんだ。

 好きな人の活力に慣れているのならこんなに嬉しいことはない。ドキドキと胸が高鳴る。かじかんだ手に、ホットワインの温もりが沁みていく。心も温かさを通り越して熱くなっていた。

 くすぐったい気持ちでホットワインの風味を味わっていると、少し先のツリーの色がぴかぴかと変わり始めた。白っぽい光だったものがカラフルな色鮮やか光を灯し、煌めき始める。

「綺麗……!」
「またイメージ変わるな」
「写真撮らなきゃ」

 足の横にホットワインのペーパーカップを置き、バッグの中からスマートフォンを取り出す。

「あ、そうだ。汐月くんに見てもらいたい写真があったんだ。この前ね……――」

 カメラロールをスクロールしながら顔を上げたその時、息が止まりそうになる。

 覗き込んできていた汐月くんの顔が目の前にあり、少しでも前のめりになると鼻先がぶつかりそうな距離になっていた。

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