選べなかった恋の続きを、君と紡いで
4
「……恥ずかしい~……」
クリスマスから数日が経ち、新しい年を迎えた一月一日の午後。私は馴染みのカフェの窓際席で、文字通り両手で頭を抱えていた。その向かいでホットコーヒーを一口飲んだ莉乃が苦笑している。
「新年早々どんよりしてんな~」
「すみません……」
「責めてないって。ていうか、まさかそんなことになってたとはね」
一度合間でランチをした時に、汐月くんとご飯に行く仲になったことは報告していた。
クリスマスの夜、あの後はなんとか気持ちを立て直し、イルミネーションを満喫して、それぞれ家に帰った。けれど家に到着する頃には、クリスマスという特別な空気感よりも、苦い気持ちだけが残ってしまっていた。
莉乃に京都のお土産を渡したい旨を連絡すると、ちょうどお互いの予定が合ったのが一月一日の午後で、昼間に久しぶりに会うことになったのだ。
新年は皆帰省したり家で過ごしたりしているのか、初詣に行っているのか……オフィス街にある馴染みのカフェは普段とは比べ物にならないくらい空いている。静かで、落ち着いたBGMも私のため息を掻き消してはくれない。
「一花はさ、どうしたい?」
綺麗にネイルが施された爪でホットコーヒーのカップを手にとりながら、莉乃が質問してくる。
「……わからない」
「告白しないの?」
声が詰まる。窓から射しこんでくる太陽が、手元のサンドイッチを照らした。
「ずっとしたいなとは思ってたんだけど勇気がなくて。クリスマスに自信なくした……」
「まあ、気持ちはわかる」
声を沈ませる私に、莉乃は真面目な顔で首を縦に振る。
そうクリスマスイブという日付、キスの予感。勝手に期待していた分、心が折れかけてしまっているのだ。
「でも、これまでの話を聞いてると汐月くんって中途半端なことしないと思うんだよな。脈ナシとも思えないし」
「ありがとう、莉乃。その言葉だけで救われるよ……」
「諦めてる?」
「はい……」
「今日珍しくネガティブだな。いや……一花は基本前向きで努力家だけど、感情が絡むと結構ぐるぐる考え込むか」
莉乃が眉を八の字にする。長年の友人である莉乃の物言いには、言葉の端々から私を慮り心配するような優しさがにじんでいた。
卵のサンドイッチを手にしたものの口に運べなくて、またお皿に戻す。
「……振られてもう会えなくなるくらいなら友だちのままでいいかなって」
「……ホントに?」
「……うん」
響いた声は自分でもわかるほど重かった。
莉乃は開きかけた口を閉じて、私のお皿にイチゴを乗せてくれる。パンケーキに添えられていたものだ。
「食べな」
「いいの?」
「ダメならあげない」
莉乃の明るい笑みに、心が軽くなった。こうして話を聞いてくれる友人がいるのは心強くてありがたい。
「仕事はどうなの?」
「実は……進捗がよくない」
プロットも無事に通り、連載一話目の執筆作業はほとんど大詰めだった。
うまく集中できないのはたぶん――いや、間違いなくクリスマスのことが尾を引いているからだ。
気を抜くと、汐月くんのことがぐるぐると脳内を巡っていた。汐月くんと私の温度差。自分の選択ミス。恥ずかしさ、情けなさ。一方通行の気持ち。ぽっかりと穴が空いたような感情ばかりが駆け巡ってしまう。
だからといって、恋愛で落ち込んで仕事に支障を出すなんて情けない。頭ではそう思うのに、キーボードを打つ手が全く進まない。こういう時、私は精神的な影響が仕事にまで響いてしまうタイプだとつくづく思う。
それらを正直に打ち明けると、莉乃が目を丸くした。
「珍しい。『大丈夫』って言わない」
「え?」
「え、ウソ。無意識?」
ホットコーヒーのカップを置いた莉乃が言葉を続ける。
「一花、いつも仕事のことを聞いたら『大丈夫』って言うから。心配はしてるけど、責任感強いタイプだからぎりぎりまで自分の中で考えて頑張りたいんだろうなって思ってたのよ」
「まあ、いつでも吐き出してくれていいんだけどね」とさらっと付け加えられた言葉が、胸に沁みる。
無意識の口癖だった……けれど、言葉にされると腑に落ちた。言われてみれば大椛さんに対してもそうだ。
それなのに今、私は弱音を当たり前のように吐き出せた。
気づかぬうちに自分の中に生まれていた変化に戸惑う。いつから? どうして? また考え込んでいたその時、テーブルの端に置いていたスマートフォンの画面が光った。
クリスマスから数日が経ち、新しい年を迎えた一月一日の午後。私は馴染みのカフェの窓際席で、文字通り両手で頭を抱えていた。その向かいでホットコーヒーを一口飲んだ莉乃が苦笑している。
「新年早々どんよりしてんな~」
「すみません……」
「責めてないって。ていうか、まさかそんなことになってたとはね」
一度合間でランチをした時に、汐月くんとご飯に行く仲になったことは報告していた。
クリスマスの夜、あの後はなんとか気持ちを立て直し、イルミネーションを満喫して、それぞれ家に帰った。けれど家に到着する頃には、クリスマスという特別な空気感よりも、苦い気持ちだけが残ってしまっていた。
莉乃に京都のお土産を渡したい旨を連絡すると、ちょうどお互いの予定が合ったのが一月一日の午後で、昼間に久しぶりに会うことになったのだ。
新年は皆帰省したり家で過ごしたりしているのか、初詣に行っているのか……オフィス街にある馴染みのカフェは普段とは比べ物にならないくらい空いている。静かで、落ち着いたBGMも私のため息を掻き消してはくれない。
「一花はさ、どうしたい?」
綺麗にネイルが施された爪でホットコーヒーのカップを手にとりながら、莉乃が質問してくる。
「……わからない」
「告白しないの?」
声が詰まる。窓から射しこんでくる太陽が、手元のサンドイッチを照らした。
「ずっとしたいなとは思ってたんだけど勇気がなくて。クリスマスに自信なくした……」
「まあ、気持ちはわかる」
声を沈ませる私に、莉乃は真面目な顔で首を縦に振る。
そうクリスマスイブという日付、キスの予感。勝手に期待していた分、心が折れかけてしまっているのだ。
「でも、これまでの話を聞いてると汐月くんって中途半端なことしないと思うんだよな。脈ナシとも思えないし」
「ありがとう、莉乃。その言葉だけで救われるよ……」
「諦めてる?」
「はい……」
「今日珍しくネガティブだな。いや……一花は基本前向きで努力家だけど、感情が絡むと結構ぐるぐる考え込むか」
莉乃が眉を八の字にする。長年の友人である莉乃の物言いには、言葉の端々から私を慮り心配するような優しさがにじんでいた。
卵のサンドイッチを手にしたものの口に運べなくて、またお皿に戻す。
「……振られてもう会えなくなるくらいなら友だちのままでいいかなって」
「……ホントに?」
「……うん」
響いた声は自分でもわかるほど重かった。
莉乃は開きかけた口を閉じて、私のお皿にイチゴを乗せてくれる。パンケーキに添えられていたものだ。
「食べな」
「いいの?」
「ダメならあげない」
莉乃の明るい笑みに、心が軽くなった。こうして話を聞いてくれる友人がいるのは心強くてありがたい。
「仕事はどうなの?」
「実は……進捗がよくない」
プロットも無事に通り、連載一話目の執筆作業はほとんど大詰めだった。
うまく集中できないのはたぶん――いや、間違いなくクリスマスのことが尾を引いているからだ。
気を抜くと、汐月くんのことがぐるぐると脳内を巡っていた。汐月くんと私の温度差。自分の選択ミス。恥ずかしさ、情けなさ。一方通行の気持ち。ぽっかりと穴が空いたような感情ばかりが駆け巡ってしまう。
だからといって、恋愛で落ち込んで仕事に支障を出すなんて情けない。頭ではそう思うのに、キーボードを打つ手が全く進まない。こういう時、私は精神的な影響が仕事にまで響いてしまうタイプだとつくづく思う。
それらを正直に打ち明けると、莉乃が目を丸くした。
「珍しい。『大丈夫』って言わない」
「え?」
「え、ウソ。無意識?」
ホットコーヒーのカップを置いた莉乃が言葉を続ける。
「一花、いつも仕事のことを聞いたら『大丈夫』って言うから。心配はしてるけど、責任感強いタイプだからぎりぎりまで自分の中で考えて頑張りたいんだろうなって思ってたのよ」
「まあ、いつでも吐き出してくれていいんだけどね」とさらっと付け加えられた言葉が、胸に沁みる。
無意識の口癖だった……けれど、言葉にされると腑に落ちた。言われてみれば大椛さんに対してもそうだ。
それなのに今、私は弱音を当たり前のように吐き出せた。
気づかぬうちに自分の中に生まれていた変化に戸惑う。いつから? どうして? また考え込んでいたその時、テーブルの端に置いていたスマートフォンの画面が光った。