選べなかった恋の続きを、君と紡いで
「ダメだ。ぜんっぜんすすまない……」
莉乃と会ってから数日。そして、クリスマスから約二週間が経過した。
寒さが一層厳しくなり始めた一月、実家に帰省中の私は、ダイニングテーブルに突っ伏していた。新年の清々しい空気に似つかわしくない唸り声が、朝のリビングに響く。
「これ面白いのかな~……」
「フリーランスも大変やねぇ」
顔を上げたタイミングで、洗濯物のカゴを抱えたお母さんがほとんど真っ白なパソコン画面を見てつぶやいた。
「まあ……仕事やし」
「根詰めすぎたらあかんよ」
数行しか埋まっていないパソコン画面に視線を戻す。
会社に属せず働く私に年末年始は関係ない。去年も一昨年もこうして働いていたのでその点は問題ない。
「お母さん、ありがとうね」
部屋を出ようとしていたお母さんが、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で振り返った。
「珍しい。『大丈夫』って言わへんの」
「え?」
「いっつも『大丈夫大丈夫』って返すのに。その調子でもっと気軽に吐き出したらええんよ」
お母さんはそう言って、今度こそベランダのほうへと消えていった。洗濯物を干し始めたらしく鼻歌が聞こえてくる。
数日前、莉乃に言われた言葉が蘇る。
莉乃や大椛さんに対してだけではない。たしかにお母さんからも仕事のことを心配されるたびそう返していたような気がする。
「無意識だったな……」
うーんと伸びをしていると、にゃ~っとかわいらしい鈴のような鳴き声が聞こえた。冬用のもこもこ素材の靴下越しに、何かが脛に触れる感触。見れば、実家で飼っている白猫のルルが、すりすりと足にすり寄っていた。
「ルル、もしかして慰めてくれてる?」
「にゃあ」
「かわいい~~~~~」
「にゃっ」
思わず抱き上げると、ルルは私の顎にぐいっと前足を押し当てて拒否のポーズをした。暴れるルルをテーブルに戻すと、やれやれと言った様子でシッポを振りながら去っていく。ちょっと寂しい。でも、さっきの行動は間違いなくルルが慰めようとする時にしてくれるものだ。
中学を卒業する頃に実家の近くに迷い込んできたルルは、テストの結果が悪かった時、仕事で落ち込みながら帰省した時。いつも静かに寄り添ってくれた。
ルルのことはわかるのに、汐月くんの気持ちはわからない。
「……汐月くんは、私のことをどう思ってるんだろう」
さすがに嫌われてはいないことだけはわかるけれど、私とは想いの形が違う気がする。それは恐らく友情だ。誠実なイメージ……というよりも積み重ねがある汐月くんが、ロマンチックな空気に流されてキスしようとするかな。
莉乃の言う通り、中途半端な言動をする人とは思えない。というか、信じたい。
そう考えるとやっぱり私が勘違いした可能性しかない。汐月くんはただ髪に葉がついていたとかそういうフォローをしてくれようとしていたのに、私が勝手に舞い上がったのかもしれない。でも、あの「ごめん」の意味は? 誤解させてごめん、の意味? どうしてクリスマスに誘ってくれたの?
「ううう~……」
悩んでしまうのは、あの日の自分の選択をなかったことにしたいのかもしれない。もしくはまだ期待が捨てきれていないのかも……。
「……あ」
大椛さんからメールが届いた。先日送った新年の挨拶メールへの返信とともに、進捗を訪ねる文面が並んでいる。