選べなかった恋の続きを、君と紡いで
それから二日後。帰省を終えて東京へと戻る日には、なんとかあと一歩のところまで修正を仕上げることができた。最後の調整をするため、新幹線に乗り込んだ私はテーブルを引き出してパソコンでプロットと睨めっこしていた。
プロット段階で伏線や大きなエピソードを決めているため、齟齬がないか、感情の動きがおかしくないか、話の筋が変ではないか……細かいところを通して確認していく。読んで、つけたして、消してといった作業を繰り返す私のすぐ傍の窓を景色が流れていく。
「できた……」
思わず小さな声がこぼれた。
キーボードを打つ手を止めて、顔を上げる。齟齬なし、おかしなところなし。あとは大椛さんにも客観的に判断してもらおう。
達成感に包まれながら息を吐きメール画面を開いていると、新横浜の到着をしらせるアナウンスが鳴り響いていた。もう一時間以上も集中していたらしい。
窓に目を向ける。小さな額縁の中の世界は、緑豊かな山々や住宅街を抜け、都会的な横浜のビルに移り変わっていく。
ただこうして座っているだけで、様々な風景を見せながら、自動的に目的地に連れて行ってくれる新幹線。なんだか不思議な……ありがたいような感覚で景色を眺める。晴れた空から降る光がきらきらと心地よい。
大椛さんにプロットを添えたメールを送り終えたら、ますますやり遂げた実感が湧いてきた。とはいってもここからチェックバックをもらい、執筆していく作業が待っている。改めてスタートラインに立ち直しただけの状態だ。
最初に企画が通った時ももちろん嬉しかったけれど、どちらかといえば安堵感のほうが強かった。
今心がこんなにも晴れやかで満たされているのは自分の目指したい場所、方向が見えてきたからかもしれない。正しくなくても、怖くても、私が求めているものを探したい。私にとっての正解を見つけたい。
「……あれ?」
メッセージアプリを開くと、昨日、汐月くんからメッセージが届いていた。仕事に集中するために通知を切っていたので、他にも連絡が溜まっている。広告やお店からの公式メッセージの中、汐月くんの名前だけが輝いて見える気がした。
『おいしいお店見つけたからこことかどうかな?』
たった一言。絵文字のない汐月くんらしいメッセージ。
来週の約束のメッセージに心が躍る。胸の奥がぎゅうっと甘く引き絞られて、汐月くんの穏やかな笑顔が浮かぶ。
「……どうしよう。会いたい」
愛おしい思いがぐっと強くなる。
思わず『会いたい』と打ち込んだところで、車内にアナウンスが響き渡ってハッとする。
間もなく品川駅に到着するらしい。慌ただしくスマートフォンをバッグにつっこみ、パソコンの電源を落とした。