選べなかった恋の続きを、君と紡いで
 冬はあっという間に夜が訪れる。

 日が完全に沈んだ頃、東京へと戻り、自分の家へと急ぐ。大椛さんからはまだメールの返信はないけれど、私の心は弾んでいた。

 静かな夜道に、ブーツのヒール音とスーツケースを引くだけが響く。気持ちが軽くなったからか、家路に向かう足取りは自然と早く、軽やかだった。駅を出て住宅街を進み、マンションが見えてきたところで足が止まる。

「え……?」

 マンションの前には見慣れた人影があった。驚きで見開いた瞳に、私を認識して弾かれたような顔をする汐月くんが映る。どうしてここに……?

「汐月くん……?」
「……七瀬さん」

緊張気味の小さな声が、夜道に響いた。

 一瞬、景色がスローモーションのように流れた。こちらへ駆けてくる汐月くん。私も反射的に駆け寄っていた。弾んだ息が白く、薄暗い空へと消えていく。

「なんでここに……?」
「俺も会いたかったんだ、七瀬さんに」

 きっぱりと迷うことなく言い放たれた。ストレートな言葉に鼓動が反応する。

 私も会いたかった。同じ気持ちだった?

 嬉しくて胸が熱くなるのに、同じくらいまだ臆病さを残した自分が「勘違いしてはダメ」だと警告音のようなものを鳴らしてくる。いろんな気持ちが織り交ざってドキドキドキと心拍数が増えていく。

「……って、俺“も”?」

 いまさら引っかかってきょとんとすると、汐月くんも不思議そうにまばたきをした。

 会いたいと思ったけれど、それを実際には送っていないはず。そこまで考えたところでハッとしてスマートフォンを確認する。

 メッセージアプリを見ると、送っていないと思っていたはずの『会いたい』というメッセージが送信済になり既読マークまでついていた。さらに『俺も』の返事まである。

 カーっと一気に顔に熱が集まっていく。

「わ、私、送ってないと思ってて……」
「え?」

 今度は汐月くんがきょとんとした。

「でも、思ってはくれてる?」
「も、もちろん!」

 慌てて声を上げると、汐月くんが「よかった」とホッとした表情になる。

「会いたいなと思いながら帰ってきたから、まさか汐月くんがここで待っててくれてるなんて夢みたいで……」
「俺も。七瀬さんがそんなふうに思っててくれたなんて夢みたいだよ」

 汐月くんが小さく息を吸うと、チェックのマフラーが乗った広い肩が動く。

 雪花のような白い息が夜に浮かんでは消えた。

「七瀬さん」
「は、はい」

 あまりにも真剣な顔で名前を呼ばれたものだから、敬語になってしまった上、声が裏返った。汐月くんの黒髪が夜風に揺れる。

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