選べなかった恋の続きを、君と紡いで

 私の言葉も汐月くんの糧になれていたんだ。

 いわゆる世間で目指されていること、正しいと言われている正解を選び続けていた汐月くんが本能のままに踏み出してくれた一歩。勝手に体が動いたとはいっても、きっと勇気が必要なことだったはず……。

 ぐっと来てしまい、気づいたら手を伸ばしていた。軽く目を瞠る汐月くんの手の甲に、自分の手を重ねた。

「あのね。情けなくなんてひとつもないし、私は汐月くんの優しいところがすごく好きだよ。でも……」

 触れた肌はひやりとしていた。

 家の中に来たはずなのに、さっき外で触れた時よりも冷え切っている手を温めるように、体温を分け与えるように。強く、それでいてとびきり優しく包み込んだ。

「これからは言ってほしい」
「え……?」
「汐月くんが欲しいこと、したいこと……正解かどうか考える前に、よかったら私に教えてほしいんだ」

 汐月くんの目が瞬く。

「というか、たぶん『正解』なんてなくて。汐月くんが想うことが正解というか、正解にしていいというか……一緒に考えるのはどうかな」

 おせっかいかもしれない。

 それでも、今胸に宿っている思いの丈を伝えると、緩慢な動きで手を握り返された。控えめに、次第に強く……その触れ方だけで、汐月くんの気持ちが伝わってくるようだった。

「私も迷うこととかたくさんあって、汐月くんの言葉にたくさん励まされたんだ」

 仕事のこと、大椛さんのこと。正解かどうか、求められているものかどうかはわからない。
それでも挑戦したいと思えたこと。違う選択肢に踏み出せたのは、最後の線を飛び越えられたのは――汐月くんが積み重ねてくれた言葉があったから。

 ひとつひとつ語る私に、汐月くんが朗らかに表情を緩めた。

「七瀬さんの糧になれてたんだな」
「私も、さっき同じこと思ったよ」

 ぎゅっと手を握り合ったまま、お互い無言で体を寄せた。

 目が合った瞬間、クリスマスの夜に煌めく街で感じた期待が再び胸を叩いた。

 頬にこぼれた髪をそっと耳にかけられて見つめ返せば、汐月くんの瞳の中に真っ赤になった私が映り込む。

 ドキ、ドキ……と胸が鳴る。距離が自然と縮まる。

 私たちを隔てるものすべてがもどかしかった。恋心が溢れ、呼応するように心臓の音がますます大きく、激しく波打っていく。

 目を閉じる。

 頬を包まれたまま、ゆっくりと唇が重なった。少し冷えた唇。あの日届かなかったキス。思わず袖を掴みながらまぶたを上げると、すぐ目の前に愛おしそうに微笑む汐月くんが迫った。

「好き……」
「俺も。大好きだよ」

 自然とこぼれた言葉に、汐月くんが砂糖を溶かしたみたいに甘い声を返してくれる。

 幸せで、胸がいっぱいで、目頭が熱くなった。

 イルミネーションはない。クリスマスの夜のように幻想的な場所じゃない見慣れた自分の部屋。それでも気持ちが通じ合ったからか、今夜のことは一生忘れられない気がした。
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