選べなかった恋の続きを、君と紡いで
「律から聞いたのに照れてる」
「……なんか、実感して」
手の甲で口元を隠しながら、視線だけをこっちに向けてくる。
「一花の気持ちが嬉しくて」
「うん、だって大好きだから」
素直にもう一度。なんだか夢心地だと言いたげなそんな眼差しに向かって念を押すように伝えると、手を取られた。持ち上げられた指先が絡む。少しひんやりとしたお互いの手。
律が私の手の甲にそっと、誓うような口づけを落としてくれる。
「俺も好き。大好き」
ストレートな言葉に鼓動が波打つ。まっすぐな物言いもだけれど、心にある気持ちをこうして伝えてくれていることも私の喜びを増やす。手をぎゅっと握り返した。
「あとね、思い出話とか仲のいい友だちの話が聞けるのはすごく嬉しいよ。まだ知らない律のこと、もっと知りたいから」
好きだからこそヤキモチが生まれてしまったけれど、これも本音だ。受け止めるようにまばたきをした律が、口元をほころばせた。
まだ夢心地のような、それでいて熱く震えるような表情。白い息がふたりの間に舞う。
夕空に紺が混ざり、少しずつ色を変えていく。
幸福感に包まれながら風景を眺め、あの建物は何だろう、家見えるかな、なんて話をしているうちに、夕陽がどんどん沈んでいく。まるで永遠のように感じられるのに、一度日が暮れ始めるとあっという間だった。
「ねえ、写真撮らない?」
「いいな」
今もまだ単体で撮られることは恥ずかしがるけれど、ツーショットはすすんで写ってくれるようになっていた。
「えーっと、じゃあこっち向きかな」
街に背を向けるように、体の向きを変える。スマートフォンのインカメラを起動して正面に掲げると、律が収まるように軽く身を屈めてくれた。画面を見ながら、風で少しだけ乱れてしまった前髪をちょいちょいと直す。
「撮るよ~」
「うん」
律の返事を聞き、シャッターボタンをタップしたその時だった。顔を寄せられ、頬に落ちるキス。驚いて目を開いた瞬間、シャッター音が響いた。
「律!?」
「したかったから」
「そ……」
それはずるい。びっくりしたし恥ずかしさはあるのに、無邪気に笑う律を見ていると、嬉しさとときめきが勝ってしまう。
でも写真を確認すると、案の定、私は間抜けな顔をしてしまってる。
「も~! 嬉しいけど先に言ってよ」
「驚いてる一花もかわいい」
照れて喚く私をなだめるような言い方じゃなかった。愛おしさを煮詰めたような。宝物を眺めるような物言いで写真を見つめる横顔を見ていたら、何も反論できなくなってしまった。
「あとで写真送るね」
「ああ、ありがとう。……冷えてきたな。そろそろ戻ろうか」
さっきまで寒かったけれど、今は正直体中が熱い。けれどそれは言えなくて、気遣うような言葉に誘われて車へと戻った。
手を引かれ助手席のドアを開けてくれた律にエスコートされる。膝の上にブランケットまでかけてくれ、至れり尽くせりすぎる、ときゅんとする。
ついさっき好きだと伝えたけれど、ぜんぜん足りない。
「ねえ、律」
運転席に乗り込んでドアを閉めた律の名前を呼べば、「ん?」と優しい声が返ってくる。こっちを向いた律に用意していた紙袋を差し出した。
「いつもありがとう。バレンタインのチョコ、受け取ってくれる?」
紙袋を受け取った律が、中を覗き込んで目を瞬かせた。
「ありがとう。もしかして手作り?」
「うん、一応……」
今日のために練習を重ねて作ったチョコレート。
でも、プロが作ったチョコレートを食べた後ということもあって少し気恥ずかしくなって逃げるような言い方をしてしまった。生業にしている人の味には及ばないけれど、愛情だけはたくさん込めた。詰めた想いだけは胸を張れる。
「嬉しい。……食べたいけど、永久保存もしておきたいくらい」
紙袋を膝に乗せた律の白い頬にかすかな赤色がにじむ。弾む声から喜びが伝わってきて、私の頬も緩んだ。よかった。喜んでもらえた。
「実は俺からもあるんだ」
「え?」
「俺の気持ち、受け取ってもらえたら嬉しい」