選べなかった恋の続きを、君と紡いで
後部座席から現れたのは、落ち着いた色の軽い光沢がある紙袋。さっき一緒に行ったカフェのものだ。まさか私が贈り物をもらえる側だとは全く予想していなかったので、驚きと胸がいっぱいで「ありがとう」と答える声が上ずってしまう。
中には丁寧にラッピングされた長い箱がおさめられていた。
「これ限定の生チョコ……!」
「ここのは美味しいって評判だったから」
視線を上げると、律が微笑み返してくれる。カフェの予約を取るだけでも大変だったはずなのに。
「すごく嬉しい。ありがとう……! まさか私がもらえるなんて」
「俺も渡したかったんだ。バレンタインだから」
日本では女性から男性にチョコを渡す文化が根付いている。けれど欧米では男性から女性に贈り物をすると聞いたことがあるし、本来は愛や感謝を伝え合う日だ。
バレンタインにチョコを一方的に渡す……という習慣がいわゆる世間の定説だとしても、私たちにも当てはまるわけじゃない。何より同じように伝えたいと思ってくれていたこと。律の意思だということに嬉しさがこみ上げる。
「あと。実はもうひとつあるんだ」
えっ、と目を丸くしている間に車を降りた律がトランクを開ける音がする。戻ってきた腕に抱かれていたのは、真っ白な雪のような、バラのような美しく可憐な花束だった。
「クリスマスローズ……とガーベラ?」
「ああ」
「綺麗……」
感動の声が漏れる。
恭しく差し出された花束を受け取ると、腕の中でラッピングの袋が揺れた。白だけではなく淡いピンクのクリスマスローズがメイン。そして添えられたガーベラとグリーンが清らかで、冬景色にぴったりの美しさだった。
「出会ってくれて、もう一度友だちになってくれて。それから恋人として……俺の傍で一緒に歩いてくれてありがとう」
手を重ねられて、目頭が熱くなった。
「こちらこそ。こんなに素敵な花束もチョコもそれからデートも……それから一緒にいてくれてほんとうにありがとう」
律がほんの一瞬だけ安堵したように眉を動かしたことがわかって、ますます愛おしい気持ちになる。
長い間世間の正解にとらわれて生きてきた律には、まだきっと、私が思う以上に迷う場面も多くあるのかもしれない。それでも、選んでくれた。律の意思で私にこんなに素敵な言葉や贈り物を。こんなの嬉しい以外に言葉が見つからない。
爽やかで甘い花の香りを楽しんでいると、ふと、以前調べたクリスマスローズの花言葉を思い出した。
「クリスマスローズの花言葉ってたしか……」
追憶、私を忘れないで。あとは……。
「……〝清らかな愛〟?」
ぽつりとつぶやくと、手の甲を包んでくれていた指先がぴくりと動いた気がした。
顔を上げると律がわずかに目を泳がせている。続くように白い頬が色づいていく。これは間違いなく照れている。
「まさか知られてたとは思わなかった……」
「仕事上、そういうのはよく調べるから……」
頬だけではなく耳朶まで赤く染め上げていく律につられて、なぜか私まで顔が熱くなってしまった。目が合わない。普段はスマートで格好いいのに、ここで照れるなんて。
まだ恥ずかしそうに目線を揺らしている律が愛おしすぎて、ふふっと笑みがこぼれた。この反応からすると、やっぱり私が言った通りの意味を込めてプレゼントしてくれたらしい。
「あと、中学の時に律から教えてもらった花だから知ってたのもあるよ」
「え、覚えててくれたのか?」
「もしかして、律も覚えててくれてプレゼントしてくれたの?」
どうやらその通りらしく、お互い目を丸める。
「うん、一花との思い出の花だったから選んだ。あとは……花言葉も伝わってよかったよ」
つまり清らかな愛を伝えようとしてくれているのだと思うと、胸のあたりがじわじわと優しい熱を持った。まだ頬は赤いけれど、ちゃんと答えてくれるのも律らしい。
「すごく嬉しい。ありがとう。でも……」