選べなかった恋の続きを、君と紡いで
なんだか、私ばかりもらっている気がして申し訳ない。贈り合う、気持ちを伝え合う日にしては天秤が傾いているような……。つい声のトーンが落ちた私の手を、律が持ち上げる。
「俺がしたくてしたんだ。伝えても伝えても足りない気がして」
息吹く草木のように澄んだ、穏やかで安心感のある声。静かで深い律の声が、真剣な色と穏やかさを宿して語りかけてくる。
「物で伝えたいってわけじゃないけど。この溢れる想いを何か形にしたかったんだ。だから俺の意思でありワガママを受け取ってもらえたら嬉しい」
私が気にしないように言ってくれているのだとわかって、心が解けていく。
伝えても伝えても足りないなんて殺し文句すぎる気がする。律はこうしていつも安心感と一緒にときめきを落としてくるから油断できない。
「じゃあ、ホワイトデーは期待してて」
「ああ。楽しみにしてる」
「……ホワイトデーは私がサプライズするからね?」
律も何か計画してくれそうな気がして念を押すように言うと、肩を揺らされた。この反応は図星らしい。律の気持ちを否定したいわけじゃないから、こうなったら私も全力でサプライズを考えよう。
「私だって伝えても伝えても足りないんだよ」
私からも指先を絡めると、律はなぜか無言で目を細めた。
三日月のように弧を描いた瞳から悪戯めいた眼光を注がれながら、指の間をゆったりと撫でられる。さらに唇を見つめられて、ドキリとした。
「じゃあ、今、一花の気持ち聞かせてほしい」
「え……」
もしかして、私からキスしてほしいってこと? 意図を確かめるように見つめ返せば、静かに手のひらを撫でられた。どうやら正解らしい。
付き合ってわかったこと。律は意外とこういう策士というか余裕たっぷりに翻弄してくる部分がある。そして、何より私がそういう律のことも好きで好きで仕方ないのだ。
それに、想いを伝えたいという発言に偽りはない。花束が落ちないようにしっかり膝に乗っていることを確認してから、運転席側に身を乗り出した。
ドキドキと心臓の鼓動が飛び出しそうなほど速くなるのを感じながら頬に手を添えて顔を近づけると、同じように距離を縮めてくれる。ゆっくりとした動きが逆に焦れったくて、体が近づくたび心拍数が上がる。頬を包んだ手が熱い。
触れ合わせたのは、羽のように軽いキス。重ねる直前に閉じたまぶたを上げると、その瞬間唇を柔らかく割られた。反射的に開けば、頬に沿えていた手首を掴まれて深く口づけられる。
もっと。もっと触れたくて近づきたくて、私からも求めた。
長いキスが解けると、目の前に満たされたように笑う律の顔があった。意地悪な顔を想定していたのに、愛おしむような、幸せそうな。こんな表情をされてしまったら、胸を甘く鷲づかみされてしまう。
私が気持ちを伝えようとしていたのに、結局与えられている気がする。
「ずるい……」
「ごめん。嬉しくてもっと触れたくなった」
「私からしたのに」
嬉しかったけれど、ドキドキさせられてばかりで悔しかったからわざと拗ねたように言うと、繋いでいたままだった片手を繋ぎ直される。律は律で、謝罪の言葉を口にはしているけれど声の弾みが押され切れていない。
「かっこよすぎてずるい」
「実はかっこつけたかった」
その返しに、また胸が音を立てた。
「十分すぎるほどかっこいいこと、もっと自覚して~……」
「照れてる?」
「照れるでしょ!」
「嬉しいしかわいい」
彷徨わせていた目線を戻すと、律はやっぱり嬉しそうな笑みを浮かべたままだった。手首から指先へと大きな手が滑る。
さっきは花言葉がバレていると知ってあんなに照れていたくせに、今度は余裕たっぷりに想いを伝えてくれるなんてずるすぎる。相変わらず心臓に悪い。