乳吸鬼♀&未来偵察メイド:悪魔と共に在る世界 ※(関連作の目次リンクあり)
第三話 凶漢と乳吸鬼(ミルクサッカー)
(1)
人質の子供を解放してもなお、迫り来るその男、ラルティは凶悪な雰囲気を発散していて、レトラは気圧されてしまう。まさしく狂暴な殺人犯そのものだったし、短い言葉から「人殺し」であるのは察せられる。何かしら理由があってのことであったとしても怖い。
まるでブラウンのジャガーや豹とでも向き合っているかのような恐怖。やや浅黒い顔立ちには険があるどころか、怒気と殺意がみなぎっているようだった。目は街灯を反射してときおり野獣のような光方をする。手にした分厚い包丁には血が付いているようだった(暗がりでよく見えなかったが、服にも血の跡がありそうだった)。
「嬢ちゃん、どいてくれ。その魔族をぶっ殺す」
その言葉でレトラは背筋を弾かれたようにビクリとしてしまう。
そうだった。この男の狙いは自分ではなく、すぐ横にいるクラフトマンなのだ。怒りの直接の矛先は魔族であって自分ではない。しかし、クラフトマンは自分にとって好都合と思える雇用者で、ほとんど恩人ですらあるだろう。それにラルティの怒りは魔族だけでなく、その手下で便乗して悪事や横暴している人間にも向けられている。
ここでクラフトマンを見捨てるべきなのかどうかは悩むところだったし、おそらく害がないだろうとはいえ、彼とて(混血とはいえ)魔族で「呪われた支配層」「鬼貴族(鬼族、デビルノーブル)」の一部ではある。現に、女奴隷のオークションを兼ねた立食パーティーで自分に出会った。そしてその「被雇用者」という意味では、レトラ自身も悪気こそないとはいえ、「魔族の手下の人間」としてラルティから攻撃されても無理はないのだと思い至る。
(ど、どうしよう?)
レトラの思いは千々に乱れ、頭の中がカンカンになってきてしまう。
自分自身の有利不利からして、ここでクラフトマンに死なれたり、見殺しにした不忠者に見做されるのは具合が悪かった。第一に、クラフトマン自身もまた、(自己申告の話が真実であれば)それほど悪い人ではないし、穏和な魔族をわざわざ殺すのが人間全般に得だとも思えない。圧倒的に優位の立場である彼が「元奴隷」のレトラに嘘をついて騙すとも考えにくかったし(ほんの気どりで繕ったり悪趣味な大嘘つきの可能性もなくはないが)、早急に殺さないといけないとも思えない。
ゴクリと喉を鳴らして決意する。
勇気がいる。
ここはどうにか説得をこころみて、できることならばラルティを引き下がらせるべきだ。無理だとしても危険を冒す価値はある。
「ま、待って!」
たとえ身体が震えてきてしまって、声がたどたどしくて調子外れになっても、そんなことを気にしている場合ではなかった。幸いに、パニックになっていてもいうべき言葉の要点は紡ぐことができた(女の言語や会話力の特権なのだろうか?)。
「この人、人を食べない。ドワーフと混血で、さっき助けて貰って雇われたんです!」
言うべき言葉をやっと言って、それだけで精神力を使い切ったようになってしまう。もしこれでダメだったら、諦めるしかないだろうか。
ラルティは驚いた顔で、二人を交互に見た。迷っているようだったが警戒は解いておらず、騙しや不意打ちの奇襲を用心しているようだった。
「そうなのか?」
「そうだがね」
クラフトマンは平然と肩をすくめた。
だがそこで、クラフトマンは言わずもがなの余計な言葉を口にした。
「でも、君は殺人犯だな? ここで逃がしたら無用心だし危ないのでないのかな?」
人質の子供を解放してもなお、迫り来るその男、ラルティは凶悪な雰囲気を発散していて、レトラは気圧されてしまう。まさしく狂暴な殺人犯そのものだったし、短い言葉から「人殺し」であるのは察せられる。何かしら理由があってのことであったとしても怖い。
まるでブラウンのジャガーや豹とでも向き合っているかのような恐怖。やや浅黒い顔立ちには険があるどころか、怒気と殺意がみなぎっているようだった。目は街灯を反射してときおり野獣のような光方をする。手にした分厚い包丁には血が付いているようだった(暗がりでよく見えなかったが、服にも血の跡がありそうだった)。
「嬢ちゃん、どいてくれ。その魔族をぶっ殺す」
その言葉でレトラは背筋を弾かれたようにビクリとしてしまう。
そうだった。この男の狙いは自分ではなく、すぐ横にいるクラフトマンなのだ。怒りの直接の矛先は魔族であって自分ではない。しかし、クラフトマンは自分にとって好都合と思える雇用者で、ほとんど恩人ですらあるだろう。それにラルティの怒りは魔族だけでなく、その手下で便乗して悪事や横暴している人間にも向けられている。
ここでクラフトマンを見捨てるべきなのかどうかは悩むところだったし、おそらく害がないだろうとはいえ、彼とて(混血とはいえ)魔族で「呪われた支配層」「鬼貴族(鬼族、デビルノーブル)」の一部ではある。現に、女奴隷のオークションを兼ねた立食パーティーで自分に出会った。そしてその「被雇用者」という意味では、レトラ自身も悪気こそないとはいえ、「魔族の手下の人間」としてラルティから攻撃されても無理はないのだと思い至る。
(ど、どうしよう?)
レトラの思いは千々に乱れ、頭の中がカンカンになってきてしまう。
自分自身の有利不利からして、ここでクラフトマンに死なれたり、見殺しにした不忠者に見做されるのは具合が悪かった。第一に、クラフトマン自身もまた、(自己申告の話が真実であれば)それほど悪い人ではないし、穏和な魔族をわざわざ殺すのが人間全般に得だとも思えない。圧倒的に優位の立場である彼が「元奴隷」のレトラに嘘をついて騙すとも考えにくかったし(ほんの気どりで繕ったり悪趣味な大嘘つきの可能性もなくはないが)、早急に殺さないといけないとも思えない。
ゴクリと喉を鳴らして決意する。
勇気がいる。
ここはどうにか説得をこころみて、できることならばラルティを引き下がらせるべきだ。無理だとしても危険を冒す価値はある。
「ま、待って!」
たとえ身体が震えてきてしまって、声がたどたどしくて調子外れになっても、そんなことを気にしている場合ではなかった。幸いに、パニックになっていてもいうべき言葉の要点は紡ぐことができた(女の言語や会話力の特権なのだろうか?)。
「この人、人を食べない。ドワーフと混血で、さっき助けて貰って雇われたんです!」
言うべき言葉をやっと言って、それだけで精神力を使い切ったようになってしまう。もしこれでダメだったら、諦めるしかないだろうか。
ラルティは驚いた顔で、二人を交互に見た。迷っているようだったが警戒は解いておらず、騙しや不意打ちの奇襲を用心しているようだった。
「そうなのか?」
「そうだがね」
クラフトマンは平然と肩をすくめた。
だがそこで、クラフトマンは言わずもがなの余計な言葉を口にした。
「でも、君は殺人犯だな? ここで逃がしたら無用心だし危ないのでないのかな?」