乳吸鬼♀&未来偵察メイド:悪魔と共に在る世界 ※(関連作の目次リンクあり)
(2)
(き、聞かれてた? あれ全部下に聞こえてた?)
レトラは顔から火が出そうだった。
(ああ、最低だわ! 私のバカ!)
あとで階下であったときについ少しだけ睨むと、クラフトマン先生はギョッとした顔だった。動きが固くなって目を逸らしてぎこちない小声で「おはよう」などと言う。後ろめたいような気配と、飢えたような見苦しさ。気色悪さや不快感と生温かい微笑ましさが混じり合う。
この人物のメンタルや性格はやっぱり魔族よりもドワーフによっぽど近いのかもしれない。ドワーフという上級種族はしばしば偏屈だったりするものだが、反面で心根は純朴なところや義理堅い性質があって、そのために魔族よりは人間に馴染みやすい。
「クラフトマンさん、どうしたんです?」
「え、いや、その、どうも」
思い起こせば、この人は既にレトラの全裸の姿を見ているはずなのだ。怒りと気恥ずかしさと嫌悪感が一瞬だけ渦巻いた。それでも襲いかかってこないのは義理の娘の目や評価を気にしているのと、この人なりの自制心なのか? そういえば「君の勇気で危ないのが助かった」などと感謝や賞賛もしていたから、ルントゥの目だけでなく、レトラ本人に対しても義理の感覚があったり人格を尊重しているのかもしれない。
そのうち風呂や着替えを覗いてきたり痴漢行為くらいしてきそうにも思ったが、少なくとも殺して喰われる心配はなさげではある。あまりエスカレートされても困るけれども、命の危険に晒されるよりはよっぽどましだ。それに「自由契約のメイド」なのだから、本当に嫌なら逃げることもできるだろう。
仮に最悪は押し倒されたとしても、そのことで恩に着せて元は引けそう? クラフトマンは手頃な恋愛の対象でこそないとはいえ、人としてはさほど嫌いなわけでもない(身内や隣人としてはけっして悪くない)のは救いかもしれない。これで適度な分別や距離感さえあれば、とは考えてしまう。
どういうのだったら、どれくらいなら許せるのか。クラフトマンは初老だが、これが若い青年の姿だったら明らかに恋愛対象の候補だったはず(そういう魔法がないとも限らない?)。窮地を救ってくれた男性で、何かしら美点や長所があって、しかも優しかったら、それは決定打でなくともきっかけには十分過ぎる。ひょっとしたら彼の親戚などで、レトラの好みに合う若い男のドワーフがいるかもしれない。年齢の大差からして、おとぎ話の「白馬の王子様」よりも「親切な魔法使い」のような認識や位置づけになるのは否めない。
値踏みと思案の視線を受けて、クラフトマンはたじろいだように固まって見返す。
「その、何かな?」
「いえ、あ、そういうのじゃ」
相好を崩しつつ、レトラは冷静に低俗な損得勘定までしてしまう自分に苦笑してしまう。ほんの一ヶ月も前であったら、特に恋愛対象でもない男性から近寄られたり触れられたりされるだけでも嫌だった(たとえ好きな気のある男性からでも性急なのは嫌)だろう。この一週間で狂った危険と異常な体験ですっかり感覚や心理的な基準が狂ってしまったものらしい。
「私も図太くなったとか、運で生きてるなーって」
「ふうむ? そうなのか」
数秒だけ目線を交わして、微笑。
クラフトマンはわけがわからず笑う。けれどもこういうのに慣れている感じがしなくもない。きっとルントゥやその母親で鍛えられたのか。
(この人ってルントゥと暮らしてるんだよね?)
いかに義理の娘とはいえ、血がつながっているわけでもないだろうに。ルントゥの話を要約すれば、後輩や教え子で愛人でもある彼女の母親から押しつけ預けられているらしい(元から名付け親で後見人だったらしいとはいえ)。
幾分に不純なものも感じなくはなかったが、それでも母娘二人から信頼されていることは事実なのだろう。ルントゥ自身もさしてそれを嫌がっているようには見えなかったし、人間である所在不明な父親替わりでもあるようだった。ルントゥはクラフトマンよりも母親のずぼらさやわがままと変人ぶりを非難していたが、必ずしもその魔族の母親とも仲が悪いこともないようだ。
不思議な人たちだが、あまり怖くはない。
頭のおかしい残虐な魔族よりは百倍も良い。
(き、聞かれてた? あれ全部下に聞こえてた?)
レトラは顔から火が出そうだった。
(ああ、最低だわ! 私のバカ!)
あとで階下であったときについ少しだけ睨むと、クラフトマン先生はギョッとした顔だった。動きが固くなって目を逸らしてぎこちない小声で「おはよう」などと言う。後ろめたいような気配と、飢えたような見苦しさ。気色悪さや不快感と生温かい微笑ましさが混じり合う。
この人物のメンタルや性格はやっぱり魔族よりもドワーフによっぽど近いのかもしれない。ドワーフという上級種族はしばしば偏屈だったりするものだが、反面で心根は純朴なところや義理堅い性質があって、そのために魔族よりは人間に馴染みやすい。
「クラフトマンさん、どうしたんです?」
「え、いや、その、どうも」
思い起こせば、この人は既にレトラの全裸の姿を見ているはずなのだ。怒りと気恥ずかしさと嫌悪感が一瞬だけ渦巻いた。それでも襲いかかってこないのは義理の娘の目や評価を気にしているのと、この人なりの自制心なのか? そういえば「君の勇気で危ないのが助かった」などと感謝や賞賛もしていたから、ルントゥの目だけでなく、レトラ本人に対しても義理の感覚があったり人格を尊重しているのかもしれない。
そのうち風呂や着替えを覗いてきたり痴漢行為くらいしてきそうにも思ったが、少なくとも殺して喰われる心配はなさげではある。あまりエスカレートされても困るけれども、命の危険に晒されるよりはよっぽどましだ。それに「自由契約のメイド」なのだから、本当に嫌なら逃げることもできるだろう。
仮に最悪は押し倒されたとしても、そのことで恩に着せて元は引けそう? クラフトマンは手頃な恋愛の対象でこそないとはいえ、人としてはさほど嫌いなわけでもない(身内や隣人としてはけっして悪くない)のは救いかもしれない。これで適度な分別や距離感さえあれば、とは考えてしまう。
どういうのだったら、どれくらいなら許せるのか。クラフトマンは初老だが、これが若い青年の姿だったら明らかに恋愛対象の候補だったはず(そういう魔法がないとも限らない?)。窮地を救ってくれた男性で、何かしら美点や長所があって、しかも優しかったら、それは決定打でなくともきっかけには十分過ぎる。ひょっとしたら彼の親戚などで、レトラの好みに合う若い男のドワーフがいるかもしれない。年齢の大差からして、おとぎ話の「白馬の王子様」よりも「親切な魔法使い」のような認識や位置づけになるのは否めない。
値踏みと思案の視線を受けて、クラフトマンはたじろいだように固まって見返す。
「その、何かな?」
「いえ、あ、そういうのじゃ」
相好を崩しつつ、レトラは冷静に低俗な損得勘定までしてしまう自分に苦笑してしまう。ほんの一ヶ月も前であったら、特に恋愛対象でもない男性から近寄られたり触れられたりされるだけでも嫌だった(たとえ好きな気のある男性からでも性急なのは嫌)だろう。この一週間で狂った危険と異常な体験ですっかり感覚や心理的な基準が狂ってしまったものらしい。
「私も図太くなったとか、運で生きてるなーって」
「ふうむ? そうなのか」
数秒だけ目線を交わして、微笑。
クラフトマンはわけがわからず笑う。けれどもこういうのに慣れている感じがしなくもない。きっとルントゥやその母親で鍛えられたのか。
(この人ってルントゥと暮らしてるんだよね?)
いかに義理の娘とはいえ、血がつながっているわけでもないだろうに。ルントゥの話を要約すれば、後輩や教え子で愛人でもある彼女の母親から押しつけ預けられているらしい(元から名付け親で後見人だったらしいとはいえ)。
幾分に不純なものも感じなくはなかったが、それでも母娘二人から信頼されていることは事実なのだろう。ルントゥ自身もさしてそれを嫌がっているようには見えなかったし、人間である所在不明な父親替わりでもあるようだった。ルントゥはクラフトマンよりも母親のずぼらさやわがままと変人ぶりを非難していたが、必ずしもその魔族の母親とも仲が悪いこともないようだ。
不思議な人たちだが、あまり怖くはない。
頭のおかしい残虐な魔族よりは百倍も良い。