乳吸鬼♀&未来偵察メイド:悪魔と共に在る世界 ※(関連作の目次リンクあり)
第五話 逃げ場のない幸福
(1)
ルントゥの予告したとおり、たっぷり三日は「卵祭り」だった。持ち帰ったダチョウの卵はサイズが二十センチ、重さは一・五キロで両手で持たないといけない普通のニワトリの卵二十個以上の分量があるのだという。この屋敷の三人が鶏卵を七個ずつ食べるのと同じことだ。しかも、それが四個。
さっそく晩御飯に一個目を使う。
ハンマーで二ミリの殻を慎重に割って、支えの台座で転がらないようにする。大きな専用のバケツとボウルも用意して。
「おしっ! レトラの歓迎に、スペシャル天津飯作ってあげる」
腕まくりしたエプロン姿のルントゥが可愛すぎて、レトラは「うぷっ」と言葉を詰まらせる。けれどもわからないことがある。
「テンシンハンって? 料理の名前ですか?」
「うん。お米のご飯におっきな卵焼きをのせて、ソースをかける。古代料理のレシピでもあるやつ」
その天津飯とやらは、一食分に鶏卵を五個くらい使うらしいが、ダチョウの卵だったら一個で四人前の分量になる勘定であった。余った分はスクランブルエッグにして、冷蔵ボックス(明日の朝食のため)。
レトラはお腹いっぱい食べて、夜にはまたルントゥから吸われた。それでも満腹感と満足感は消えることもなかった。
(2)
翌日はルントゥがお休みだったから、二人で連れ立って市場に買い出しに行った。
まだ出会って三日目でしかないというのに、すっかり打ち解けた気分になって。たぶんレトラが求めていた生活や未来の理想に近い境遇だっただろうし、この雇用者で友人でもある少女のことが好きになってしまっている。
レトラは買い物カゴを二つぶら下げて後から道をついていく。こんな危ない見知らぬ町であっても、ルントゥと一緒だったら迷う恐れもなかったし、襲われる心配少ないことだろう。好奇心と冒険心が頭をもたげてきて、ついつい辺りを見廻してしまうのだった。
「んー、同い年くらいでしょ? だって魔族は寿命が長いけどその分成長も遅いし」
和気あいあいと雑談して歩く。まるで平和な村娘時代のように。
だが辺りを見廻しつつ歩いて、あのわずか三日前に自分が入れられていたような、売買される人畜奴隷の檻が並んだ通りがあった。突然に動悸がして胸が早鐘を打ち出す。いきなり胃の腑が突き上げるような吐き気がして、目のついた側溝に蹲って吐き戻してしまう。
「大丈夫?」
優しい声と手がけ背中を撫でる。
たぶんレトラ自身は幸福な境遇だろう。
けれどもその幸福や平和はレトラという一人だけのことでしかない。人間全般が幸せで安全なのでもなかった。歪んで呪われた世界で、自分もいつでも逆戻りと仲間入りするかもしれない、数多くの犠牲者がいる。直接の破滅でなくても、痛めつけられて怯えている者たちが大半のはず。
ルントゥは悪くない。けれども巨大な加害者たちの一部にはかわりがない。彼女のことは好きだったが、それは許されることなのだろうか?
心配そうに覗き込むルントゥの目に、レトラはつい涙ぐんで泣きそうになってしまう。
「ルン……」
彼女をどこか、違う遠い安全で平和な場所に連れていってあげたかった。自分自身が脅かされて怯え続けるのも耐えられなかったし、彼女みたいな娘が否応なく加害者側に分類されてしまうのも心に受け入れられない。
「ショック受けたのね。ごめん、もっと違う道を通ればよかったわ」
ルントゥはレトラを支えて立ち上がらせながら背中をさすってくれた。
レトラは「幸福」だったけれども、自分も彼女も、この国で制度化された歪みや暴力からの逃げ場などありはしないのだった。
ルントゥの予告したとおり、たっぷり三日は「卵祭り」だった。持ち帰ったダチョウの卵はサイズが二十センチ、重さは一・五キロで両手で持たないといけない普通のニワトリの卵二十個以上の分量があるのだという。この屋敷の三人が鶏卵を七個ずつ食べるのと同じことだ。しかも、それが四個。
さっそく晩御飯に一個目を使う。
ハンマーで二ミリの殻を慎重に割って、支えの台座で転がらないようにする。大きな専用のバケツとボウルも用意して。
「おしっ! レトラの歓迎に、スペシャル天津飯作ってあげる」
腕まくりしたエプロン姿のルントゥが可愛すぎて、レトラは「うぷっ」と言葉を詰まらせる。けれどもわからないことがある。
「テンシンハンって? 料理の名前ですか?」
「うん。お米のご飯におっきな卵焼きをのせて、ソースをかける。古代料理のレシピでもあるやつ」
その天津飯とやらは、一食分に鶏卵を五個くらい使うらしいが、ダチョウの卵だったら一個で四人前の分量になる勘定であった。余った分はスクランブルエッグにして、冷蔵ボックス(明日の朝食のため)。
レトラはお腹いっぱい食べて、夜にはまたルントゥから吸われた。それでも満腹感と満足感は消えることもなかった。
(2)
翌日はルントゥがお休みだったから、二人で連れ立って市場に買い出しに行った。
まだ出会って三日目でしかないというのに、すっかり打ち解けた気分になって。たぶんレトラが求めていた生活や未来の理想に近い境遇だっただろうし、この雇用者で友人でもある少女のことが好きになってしまっている。
レトラは買い物カゴを二つぶら下げて後から道をついていく。こんな危ない見知らぬ町であっても、ルントゥと一緒だったら迷う恐れもなかったし、襲われる心配少ないことだろう。好奇心と冒険心が頭をもたげてきて、ついつい辺りを見廻してしまうのだった。
「んー、同い年くらいでしょ? だって魔族は寿命が長いけどその分成長も遅いし」
和気あいあいと雑談して歩く。まるで平和な村娘時代のように。
だが辺りを見廻しつつ歩いて、あのわずか三日前に自分が入れられていたような、売買される人畜奴隷の檻が並んだ通りがあった。突然に動悸がして胸が早鐘を打ち出す。いきなり胃の腑が突き上げるような吐き気がして、目のついた側溝に蹲って吐き戻してしまう。
「大丈夫?」
優しい声と手がけ背中を撫でる。
たぶんレトラ自身は幸福な境遇だろう。
けれどもその幸福や平和はレトラという一人だけのことでしかない。人間全般が幸せで安全なのでもなかった。歪んで呪われた世界で、自分もいつでも逆戻りと仲間入りするかもしれない、数多くの犠牲者がいる。直接の破滅でなくても、痛めつけられて怯えている者たちが大半のはず。
ルントゥは悪くない。けれども巨大な加害者たちの一部にはかわりがない。彼女のことは好きだったが、それは許されることなのだろうか?
心配そうに覗き込むルントゥの目に、レトラはつい涙ぐんで泣きそうになってしまう。
「ルン……」
彼女をどこか、違う遠い安全で平和な場所に連れていってあげたかった。自分自身が脅かされて怯え続けるのも耐えられなかったし、彼女みたいな娘が否応なく加害者側に分類されてしまうのも心に受け入れられない。
「ショック受けたのね。ごめん、もっと違う道を通ればよかったわ」
ルントゥはレトラを支えて立ち上がらせながら背中をさすってくれた。
レトラは「幸福」だったけれども、自分も彼女も、この国で制度化された歪みや暴力からの逃げ場などありはしないのだった。