乳吸鬼♀&未来偵察メイド:悪魔と共に在る世界 ※(関連作の目次リンクあり)
(3)
物事の悪いタイミングというのは、重なるものであるらしかった。
市場区画の中にある小さな広場で「反逆した罪人」たちが晒し者にされていた。五六人の男たちは首と足に鎖をつながれて、台の上でひたすら突っ立っているのだ。両手は切り落とされてなかったし、鼻と耳も削ぎ落とされて痛々しい。
その罪は「供出された娘と子供を救出しようとしたこと」なのだという。彼らは奴隷や人畜に売られた娘と子供の父親や兄弟と親族、そして婚約者とその友人たち。最初に、決闘裁判で購入者の人間エリート(上級下僕階級)から取り戻そうとして、あの遍歴剣闘士のラルティに依頼して勝利し、それで一件落着になったはずだった。ところが人間エリートの権利保有者が約束を違えて、破れかぶれと腹いせだったのか、魔族(鬼貴族)の歓心を買うために娘と子供を転売してしまった。何度か申し立てしたが門前払いで取り合って貰えず、そのうちに弟の方の子供が宴会の料理にされて殺されてしまった(嘲って救出を試みていた家族たちに生首が届けられたそうだ)。挙げ句に「魔族に反抗的な態度をとったから反逆者だ」と、媚びへつらう裁判官と弁務官が判決して彼らは罪人として捕らえられてしまった。それでとうとう、関わっていたあの遍歴剣闘士のラルティが怒って「天誅の人殺し」事件して逃亡してしまったらしい。
どうしてそんな事情がレトラたちにわかったかと言えば、高札に簡単な記載があったし、人々も見物しながら話していたからだ。何よりも雇われた「教戒詩人」が「魔族と支配に逆らう愚か者たちの滑稽な末路」を面白おかしそうに、馬鹿にし嘲りながら講釈の説明を朗々と垂れていたから(プロパガンダや恫喝する係の芸人である)。
(あの教戒詩人って奴、人として最低だわ。何様のつもりよ! それに酷い無茶苦茶な判決した裁判官だって、魔族じゃなくて人間のはずなのに)
悪魔みたいな人たちが現実にいる。半分が魔族の血のはずのルントゥや、クラフトマンやルントゥの母親は「人」と思うけれども、そういう最低過ぎる人たちは同じ人間だと思いたくない。
どれだけ胸の底で毒づいたところで、レトラにはどうしてやることもできはしない。絶望的な苦境から助け出す力があるわけではなかったし、理不尽に切り落とされた両手を元に戻して上げられるわけでもなかった。
調子に乗って囃し立てて面白がっている群衆たちも醜悪だった。彼らの多くは魔族の上級下僕やその受益者たちなのだろう。自分たちの利益や安全を脅かしそうな「反抗的な被支配者」が成敗と見せしめされたことを喜んでいるのは、彼らが心の中で自分たちの罪と悪事の因果応報に怯え続けている裏返しなのかもしれなかった。
一部には、明らかに被支配者の貧民らしき輩ではしゃいでいる者もいた。理由がどうであれ、「自分よりも不孝や不運な人間」がいることに満足して、自分自身の惨めさを慰めているのだろう。優越感というのは、一般には快楽だから。
だとしても、あまりに全てが無恥無慙だった。
だがレトラだって、この卑劣で下劣な連中と立場は大差があるはずもない。「自分はこいつらとは違う」と言い訳して、無意味に安心しているだけかもしれない。
「行こう」
ルントゥがそっと手を引き、顔を合わせると左右に頭を振る。どこかやるせない顔。彼女が自分と同じような気持ちや感情を持っていることにだけは、ほんの少しだけ安堵する。
「あの人たちの苦しみは、じきに終わると思う」
「……そうだといいんですけど」
ためらいながら、間を置いて肯定する。「苦しみが終わる」という言葉や言い方が、死を意味するのは明らかだから。それは最後に残された次善の、申し訳程度の救いでしかなかったし、悲劇の完成でしかない。せめてもの慰めは「苦しみに終わりがある」という事実だけなのだった。
二人はいっぱいになった買い物カゴをぶら下げて、そっと遠目に通り過ぎていく。哀れな彼らに水の一杯なり果物の一つくらいを与えてやりたいところだったが、これだけ人目がある。たとえ誰もいなくても監視されていて、あとで腐った連中から目をつけられないとも限らない。
まったく酷い世の中だった。
物事の悪いタイミングというのは、重なるものであるらしかった。
市場区画の中にある小さな広場で「反逆した罪人」たちが晒し者にされていた。五六人の男たちは首と足に鎖をつながれて、台の上でひたすら突っ立っているのだ。両手は切り落とされてなかったし、鼻と耳も削ぎ落とされて痛々しい。
その罪は「供出された娘と子供を救出しようとしたこと」なのだという。彼らは奴隷や人畜に売られた娘と子供の父親や兄弟と親族、そして婚約者とその友人たち。最初に、決闘裁判で購入者の人間エリート(上級下僕階級)から取り戻そうとして、あの遍歴剣闘士のラルティに依頼して勝利し、それで一件落着になったはずだった。ところが人間エリートの権利保有者が約束を違えて、破れかぶれと腹いせだったのか、魔族(鬼貴族)の歓心を買うために娘と子供を転売してしまった。何度か申し立てしたが門前払いで取り合って貰えず、そのうちに弟の方の子供が宴会の料理にされて殺されてしまった(嘲って救出を試みていた家族たちに生首が届けられたそうだ)。挙げ句に「魔族に反抗的な態度をとったから反逆者だ」と、媚びへつらう裁判官と弁務官が判決して彼らは罪人として捕らえられてしまった。それでとうとう、関わっていたあの遍歴剣闘士のラルティが怒って「天誅の人殺し」事件して逃亡してしまったらしい。
どうしてそんな事情がレトラたちにわかったかと言えば、高札に簡単な記載があったし、人々も見物しながら話していたからだ。何よりも雇われた「教戒詩人」が「魔族と支配に逆らう愚か者たちの滑稽な末路」を面白おかしそうに、馬鹿にし嘲りながら講釈の説明を朗々と垂れていたから(プロパガンダや恫喝する係の芸人である)。
(あの教戒詩人って奴、人として最低だわ。何様のつもりよ! それに酷い無茶苦茶な判決した裁判官だって、魔族じゃなくて人間のはずなのに)
悪魔みたいな人たちが現実にいる。半分が魔族の血のはずのルントゥや、クラフトマンやルントゥの母親は「人」と思うけれども、そういう最低過ぎる人たちは同じ人間だと思いたくない。
どれだけ胸の底で毒づいたところで、レトラにはどうしてやることもできはしない。絶望的な苦境から助け出す力があるわけではなかったし、理不尽に切り落とされた両手を元に戻して上げられるわけでもなかった。
調子に乗って囃し立てて面白がっている群衆たちも醜悪だった。彼らの多くは魔族の上級下僕やその受益者たちなのだろう。自分たちの利益や安全を脅かしそうな「反抗的な被支配者」が成敗と見せしめされたことを喜んでいるのは、彼らが心の中で自分たちの罪と悪事の因果応報に怯え続けている裏返しなのかもしれなかった。
一部には、明らかに被支配者の貧民らしき輩ではしゃいでいる者もいた。理由がどうであれ、「自分よりも不孝や不運な人間」がいることに満足して、自分自身の惨めさを慰めているのだろう。優越感というのは、一般には快楽だから。
だとしても、あまりに全てが無恥無慙だった。
だがレトラだって、この卑劣で下劣な連中と立場は大差があるはずもない。「自分はこいつらとは違う」と言い訳して、無意味に安心しているだけかもしれない。
「行こう」
ルントゥがそっと手を引き、顔を合わせると左右に頭を振る。どこかやるせない顔。彼女が自分と同じような気持ちや感情を持っていることにだけは、ほんの少しだけ安堵する。
「あの人たちの苦しみは、じきに終わると思う」
「……そうだといいんですけど」
ためらいながら、間を置いて肯定する。「苦しみが終わる」という言葉や言い方が、死を意味するのは明らかだから。それは最後に残された次善の、申し訳程度の救いでしかなかったし、悲劇の完成でしかない。せめてもの慰めは「苦しみに終わりがある」という事実だけなのだった。
二人はいっぱいになった買い物カゴをぶら下げて、そっと遠目に通り過ぎていく。哀れな彼らに水の一杯なり果物の一つくらいを与えてやりたいところだったが、これだけ人目がある。たとえ誰もいなくても監視されていて、あとで腐った連中から目をつけられないとも限らない。
まったく酷い世の中だった。