乳吸鬼♀&未来偵察メイド:悪魔と共に在る世界  ※(関連作の目次リンクあり)
(3)
 あいつらが、ここまで追いすがって追跡してきた根性だけは見上げたものかもしれない(行列と集団で!)。レトラの気持ちとしては大迷惑ではあったけれど、あの魔族のチンピラたちの意地汚い根性だけはほんの一ミリくらいは褒めてあげたかった。呆れを通り越して、賞賛に近い感想と生温かい気持ちが一滴くらい湧く。
 最大の急所である金的に高圧電流を流されて人間の男ならショック死するような苦悶を味わって(だからルントゥにやられた奴らはみんなズボンの前が失禁で濡れている。女には推し量れない類の苦痛であるらしい)、おまけにレトラの一回限りの魔術(連射は無理)で吹っ飛ばされただけならまだしも、ルントゥから頭の上にバルコニーを落とされたのだ。
 それでも服が汚れて破れたり、血まみれになったり、足を引きずったりしながら、懸命にここまでやってきた。たとえ動機が獣欲と逆恨みでしかなかったとしても、しょうもない気合いだけはお見事かもしれない。その根性を何か生産的な用途に向けていれば、たぶん人から褒められたり一目置かれただろうに。

(ああこの人たちは、本当にどうしようもない!)

 さっきまで差し迫った危険と直接の脅威に曝されていたから不安で怖かったのだけれども、こうして半ば他人事として距離を置いて眺めると、彼らは本当にくだらない人間なのだと思う(魔族なのだけれど)。自分が危ないめに遭わされて脅かされた恨みの思いがあるし、ろくでもなさを身でもって知っているせいなのか、ほぼ全く同情は感じられなかった。レトラなどは割当に優しい、思いやりのある性格ではあると自分では思っているし、たぶん他人からもそうだろうが、今ばかりは冷ややかで彼らの顛末に暗い微笑みさえ浮かぶ。

「あ? あれって魔狼のガリウスじゃねえの?」

「エルフの連中が武器持ってるぞ? あれ? ここってエルフの居住区じゃね?」

 魔狼のガリウス君は「武者修行の遠征」に出ていたはずだったし、偶然に帰ってきてクラフトマンと従妹を訪ねているとは思っていなかったのだろう。それにルントゥは面倒を避けるため、「普段は表向きには母親の別荘に住んでいて外出しない」ということになっていて、ここの別邸や獣医の仕事のことなども伏せられている。
 後悔しても遅い。彼らは引き返せない、逃げられない結末に辿り着いていた。

「ウオラァ!」

 ノースリーブのシャツに引き締まった筋肉腕を振りかざし、ガリウスが襲いかかる。拳には携帯用のメリケンサック、問答無用で殴り潰す。顔面はへしゃげて骨はぶち折れる。倒れた半死半生に集まってきたエルフやドワーフや人間の使用人たちが、鈍器で殴りつけ、漬け物石で頭を狙う。
 クラフトマンが「昔取った杵柄」で、火かき棒で剣を持った魔族とやり合い、人間のならず者たちとの乱闘も激化していく。シチュエーションや相手からして「こいつら殺しちまって構わねえ」という集団的判断が働いて、一気にタガが外れたのだろう。人の原初の暴力性が解放されている。

「うわあ。すごいことになっちゃいましたね」

「自業自得なんだわ。こういう奴らは定期的に思い知らせておかないと、つけあがって横暴酷くなるし、良い機会だと思うよ」

 目を丸くするレトラに、ルントゥは買い物カゴからスルメを出して噛みつつ、高みの見物。レトラにもさりげなく一切れ分けてくれたのだけれども、今はそれどころの精神状態でなかったし、喉を通りそうにもない。
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