乳吸鬼♀&未来偵察メイド:悪魔と共に在る世界  ※(関連作の目次リンクあり)
(4)
 身をやつしたラルティは、囚われて晒し者にされている元依頼人たちを眺めて、計算違いにほぞを噛んでいた。

(まさか両手を切り落としやがるとは。おまけに鼻と耳までそぎ落とすとはな! これじゃあ解放しても武器が使えねえ!)

 こっそりとむしろに包んで隠しながら、数本の剣を持ってきていた。彼らを拘束から解放して武器を渡せば、みんなで暴れれば逃げ切れるかもしれないと考えていたが、当てが外れたようだ。ただでさえ分の悪い賭けみたいなもので、暴れるだけ暴れて斬り死にの玉砕すら覚悟していたのだったが、これではどうにもなるまい。
 懐中の、貴重な魔法石爆弾に手を触れて悩む。

(どうする? こいつを投げ込めば、一息に殺して楽にしてやれるが。これから一端ここを離れて助ける算段したところで間に合うか?)

「おい、ラルティじゃね?」

 ポンと肩を叩かれて、ギョッとする。
 同じ闘技場で見知った剣闘士の男だった。その背後にも五六人くらい。

「面白いことになったぞ。エルフの区画に魔族のチンピラが入り込んで、喧嘩騒ぎになっている。このドサクサに乗らねえ手はない」

 企みの笑顔だった。

「あれって、お前の賭け試合の依頼人だろ? みんなで暴れてさっさとずらかっちまおう。もうここじゃ十分に稼いだし、試合の契約が守られないとか賞品が帳消しじゃあ、もう商売なりたたん」

 ラルティの賭け試合が理不尽に無効にされたり依頼人が無理矢理に罪に落とされたことは、プロ剣闘士たちから不信と不興を買っていた。ラルティの要望は「奴隷にされた女と子供の解放」で、別に法外に無理な願いではない。それが性根の腐った御用商人と鬼貴族の気分次第で台無しでは、明らかに最低限の信頼関係すら踏みにじられたようなものだった。
 彼らは闘技場で野獣やモンスターと戦うにしろ、お互い同士で試合や殺し合うにしろ、出場してファイトマネーが出ないとか勝ってもボーナス賞金や賞品が取り消しでは、命がけの商売そのものが否定されたのと同じだった。割に合わないだけでなく、職業的なプライドや尊厳に挑戦されたと感じたのだろう。

「よし、やろう! できれば、まだ生きているかもしれない娘の奴隷女の方も助けたい」

「金次第だな」

「たいした額は持ち合わせてない」

「だったらあいつらから奪えばいい。救出にカチ込むついでに金目のもんでも頂こう」

 にわかに剣闘士強盗団、始動!


(5)
 争乱の始まった町の様子に、一人の男が暗い企みの微笑みを浮かべて見守っていた。その男はヴァレリアン(ヴァレリー)と呼ばれる「古代から生きている悪魔」だった。

(こういう機会を待っていた……。俺は死神だ! 今こそ使命を果たしてやる! さあ、毒と病害を撒いてやるぞ! 「祭り」だ、悪魔たちを目覚めさせなくてはならない!)

 ふと、あの檻の中にいた娘のことを思い出す。
 あれは「資質ある者」だった。

(君の名前も知らないが、君もやるんだよ)

 ヴァレリアンは悪魔じみた笑い声をこぼした。
 
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