乳吸鬼♀&未来偵察メイド:悪魔と共に在る世界 ※(関連作の目次リンクあり)
第七話 霧の日の昔話/私たちこそは悪魔
(1)
その日の午後、町のあちこちや周辺の郊外の村々にまで、散発的な暴力沙汰がばら撒かれた火花のように伝播していった。
そして夕闇までまだ小一時間以上はある頃に薄暗くなりだす。
霧だった。
これまでついぞに見たこともない霧や靄のような不可思議な水蒸気が、町や周辺の村や谷と野原に広がっていく。レトラはこれまでこの辺りに近寄ったことがなく、連れてこられて一週間くらいでしかないので、風土の気候のことまではよくわからない。
庭先でハーブのプランターに水をやっていたレトラとルントゥも早々に異変に気づく。
「ルン様、この辺りではよくこんな霧が出るんでしょうか?」
「こんなことないわ。こんなのはめったに。霧って言えば、昔話で……くしゅんっ!」
ルントゥは急にくしゃみをする。なんだか顔が熱っぽいようだった。レトラが手のひらを額に当てると、ほんのちょっと微熱があるように感じられた。
「身体の具合が?」
「うーん、なんだかおかしな気がする。疲れたのかも? コホッ」
あんな危ない目に遭ったり、大騒動に立ち会ったのだから、気疲れしても無理はあるまい。
けれども奇妙なのは、ルントゥの様子が風邪に似ていることだった。魔族やエルフというのは基本的に風邪をひかない(先天的な体質が高級だからとされる)。もっともルントゥは人間との混血ハーフだから風邪をひいても不思議はない。
だが、人間のレトラは全くなんともない。この数日間を寝床でまで一緒にいたのだから、半魔族のルントゥだけが風邪をひいてレトラが無事というのも、なんだか変に思えなくもない。
「中に入りましょう。きっと疲れたんですよ」
夕食の支度をしようとしていたら、今度はクラフトマンがやってきた。顔が熱っぽい。
「今日は私は夕食は軽いのでいい。ちょっと気分がわるいようでな」
レトラは怪訝な顔をする。
なぜならクラフトマンは魔族とドワーフが半分ずつなのだから、普段だったら風邪なんかひくわけがないのだ。しかも人間のレトラはピンピンしていて全然に不調の予兆や気配もない。
「あら? クラフトマンさんまで? ルン様も風邪っぽいって。気候のせいなんでしょうか? さっき急に霧が出てきて。この辺りでは珍しいんだとか、やっぱり気圧とか温度のせいでしょうか?」
「なに、霧が出た?」
クラフトマンは明らか動揺していて、何かしら思い当たる節でもあるらしかった。
「霧がどうかしたんですか?」
「霧の日には、悪魔が騒ぎ出すのさ」
クラフトマンは当惑して緊張した面差しで、あながち冗談を言っているのでもないようだ。レトラはついさっきのルントゥとの会話を思い出す。
「ルン様が「昔話」がどうのって」
クラフトマンの温度はレトラとは違った。大真面目な顔で、奇怪で不穏なことを語る。
「それが昔話だけだったら良いがな。私はずいぶん若いときに、こんな日に悪魔に会ったし、そのときは町中が大騒ぎだったよ。しばらくは家から出ないことだな」
その日の午後、町のあちこちや周辺の郊外の村々にまで、散発的な暴力沙汰がばら撒かれた火花のように伝播していった。
そして夕闇までまだ小一時間以上はある頃に薄暗くなりだす。
霧だった。
これまでついぞに見たこともない霧や靄のような不可思議な水蒸気が、町や周辺の村や谷と野原に広がっていく。レトラはこれまでこの辺りに近寄ったことがなく、連れてこられて一週間くらいでしかないので、風土の気候のことまではよくわからない。
庭先でハーブのプランターに水をやっていたレトラとルントゥも早々に異変に気づく。
「ルン様、この辺りではよくこんな霧が出るんでしょうか?」
「こんなことないわ。こんなのはめったに。霧って言えば、昔話で……くしゅんっ!」
ルントゥは急にくしゃみをする。なんだか顔が熱っぽいようだった。レトラが手のひらを額に当てると、ほんのちょっと微熱があるように感じられた。
「身体の具合が?」
「うーん、なんだかおかしな気がする。疲れたのかも? コホッ」
あんな危ない目に遭ったり、大騒動に立ち会ったのだから、気疲れしても無理はあるまい。
けれども奇妙なのは、ルントゥの様子が風邪に似ていることだった。魔族やエルフというのは基本的に風邪をひかない(先天的な体質が高級だからとされる)。もっともルントゥは人間との混血ハーフだから風邪をひいても不思議はない。
だが、人間のレトラは全くなんともない。この数日間を寝床でまで一緒にいたのだから、半魔族のルントゥだけが風邪をひいてレトラが無事というのも、なんだか変に思えなくもない。
「中に入りましょう。きっと疲れたんですよ」
夕食の支度をしようとしていたら、今度はクラフトマンがやってきた。顔が熱っぽい。
「今日は私は夕食は軽いのでいい。ちょっと気分がわるいようでな」
レトラは怪訝な顔をする。
なぜならクラフトマンは魔族とドワーフが半分ずつなのだから、普段だったら風邪なんかひくわけがないのだ。しかも人間のレトラはピンピンしていて全然に不調の予兆や気配もない。
「あら? クラフトマンさんまで? ルン様も風邪っぽいって。気候のせいなんでしょうか? さっき急に霧が出てきて。この辺りでは珍しいんだとか、やっぱり気圧とか温度のせいでしょうか?」
「なに、霧が出た?」
クラフトマンは明らか動揺していて、何かしら思い当たる節でもあるらしかった。
「霧がどうかしたんですか?」
「霧の日には、悪魔が騒ぎ出すのさ」
クラフトマンは当惑して緊張した面差しで、あながち冗談を言っているのでもないようだ。レトラはついさっきのルントゥとの会話を思い出す。
「ルン様が「昔話」がどうのって」
クラフトマンの温度はレトラとは違った。大真面目な顔で、奇怪で不穏なことを語る。
「それが昔話だけだったら良いがな。私はずいぶん若いときに、こんな日に悪魔に会ったし、そのときは町中が大騒ぎだったよ。しばらくは家から出ないことだな」