乳吸鬼♀&未来偵察メイド:悪魔と共に在る世界 ※(関連作の目次リンクあり)
(2)
夕食は簡単な煮込み料理(キャベツと豚肉)とオートミール。やや汁っぽいものばかりだったが、体調を考えた結果そうなった。
食後にレモンしょうが湯を飲みながら、書斎のソファでしばしの歓談があった。クラフトマンの昔話だ。
「信じやしないかもしれないが、予感通りだったらじきにわかる。私は、ずいぶん大昔の若いときに、七十年も前かな、こんな霧の日に「悪魔」に会ったことがあるのさ」
そうしてクラフトマンは、一枚の念写された人相書きを取り出して、レトラに手渡した。
「君が会ったのは、この男でないかい? 資料館の銅版画から念写コピーしてもらってきた」
「たしかに似てはいますけど。でも、資料館の銅版画って。七十年も昔の人間が同じ姿だなんて」
「ところがどっこい! そのコピー元の銅版画は、なんと三百年以上も昔の代物で、崩壊していた古代神殿の遺跡から見つかった代物なのさ」
クラフトマンの指が、人相書きコピーの端にある象形文字を示す。「走無常馬蹄」。
「この大陸の歴史以前の古代言語で「馬の蹄を持つ死神」って意味なんだよ」
「死神?」
「いわゆる「死神」の観念は色々なバージョンやパターンがあるんだが、「走無常」は生きている人間が地獄やあの世の役人になって、人を連れて行ったり案内する。古代チノ文明のもので、海の向こうのヤポニカでも似たような話はある。それから「蹄がある」のは、エウロパ地方の「悪魔」のイメージなんだ。だから、その大元の銅版画は悪魔とか死神とか、そういう属性の人物なんだろう」
「へええ」
レトラとルントゥは感心し合いながら顔を見合わせた。
「だとしても、他人の空似だとか……」
なんだかレトラは寒気がするような不安に苛まれながら、おそるおそるたずねる。答えを聞くのが怖かったけれども、きかずにいられない。
「と、思うだろ?」
クラフトマンはニヤリとして指を振った。
「私が会った男は、まさしくこの男なんだよ。片脚が生きている義足か何かのようで、馬の蹄のようだった。ヴァレリアンとかヴァレリーとか、そんな名前だった」
「名前? どうしてご存じなんですか?」
「話をしたからさ。そうして、恐ろしい古代の、我々の歴史が始まる以前の秘密を語り聞かせてくれたんだ。「お前は魔族の雑種のようだが、自分が何者で、これからどうなるかわかるか?」と」
クラフトマンはふうっとため息した。
「「この霧は毒と呪いだ、もしもお前が人間を好んで食べているならば恐ろしい熱病に苛まれるだろう。お前たち魔族は造られた支配種族で、荒んだ場所と愚民を力づくで統治する道具だ。人を食べる習性は野性の肉食獣と同じで、人口調整して自滅を防ぐため。銀や日光へのアレルギーがあるのは必要に応じて管理や処分するため。この霧は、度が超えたときにまとめて殺す魔法なんだ」と。「リセット機能」だのと」
「そういう話、先史時代の研究者の間では有名な説なのよ。お母様からもよく聞いている。こんな霧がどうとかは、よくわからないけど。たぶんパパが会ったのは魔族やエルフを魔術の人工進化で造った超古代の魔術師の生き残りだったのかもね」
ルントゥが口を挟んで説明してくれる。
クラフトマンが引き継いで話を続けた。
「当時は鉱山や冶金をやっていたが。先史時代の謎の歴史になんか興味を持って調べるようになったのは、それからだ。資料館の埃を被った銅版画で見つけたときには心底に驚いたものだった。そうそう、もう一つ、あの悪魔のヴァレリアンが言っていたことがある。この霧は、特定の因子を持った人間を強暴化させて魔族を襲わせるんだと。あのときは事実その通りになって、熱病でバタバタ倒れて寝込んでいた魔族たちを狂ったようになった人間たちが大勢殺した。歴史記述でも「反乱が散発した」と書かれているくらいにはね」
「でもクラフトマンさんは無事だったんですね」
「私は純血の魔族ではないし、めったに人間の肉なんか食っとらんかったから」
クラフトマンはさもおかしげに笑った。
夕食は簡単な煮込み料理(キャベツと豚肉)とオートミール。やや汁っぽいものばかりだったが、体調を考えた結果そうなった。
食後にレモンしょうが湯を飲みながら、書斎のソファでしばしの歓談があった。クラフトマンの昔話だ。
「信じやしないかもしれないが、予感通りだったらじきにわかる。私は、ずいぶん大昔の若いときに、七十年も前かな、こんな霧の日に「悪魔」に会ったことがあるのさ」
そうしてクラフトマンは、一枚の念写された人相書きを取り出して、レトラに手渡した。
「君が会ったのは、この男でないかい? 資料館の銅版画から念写コピーしてもらってきた」
「たしかに似てはいますけど。でも、資料館の銅版画って。七十年も昔の人間が同じ姿だなんて」
「ところがどっこい! そのコピー元の銅版画は、なんと三百年以上も昔の代物で、崩壊していた古代神殿の遺跡から見つかった代物なのさ」
クラフトマンの指が、人相書きコピーの端にある象形文字を示す。「走無常馬蹄」。
「この大陸の歴史以前の古代言語で「馬の蹄を持つ死神」って意味なんだよ」
「死神?」
「いわゆる「死神」の観念は色々なバージョンやパターンがあるんだが、「走無常」は生きている人間が地獄やあの世の役人になって、人を連れて行ったり案内する。古代チノ文明のもので、海の向こうのヤポニカでも似たような話はある。それから「蹄がある」のは、エウロパ地方の「悪魔」のイメージなんだ。だから、その大元の銅版画は悪魔とか死神とか、そういう属性の人物なんだろう」
「へええ」
レトラとルントゥは感心し合いながら顔を見合わせた。
「だとしても、他人の空似だとか……」
なんだかレトラは寒気がするような不安に苛まれながら、おそるおそるたずねる。答えを聞くのが怖かったけれども、きかずにいられない。
「と、思うだろ?」
クラフトマンはニヤリとして指を振った。
「私が会った男は、まさしくこの男なんだよ。片脚が生きている義足か何かのようで、馬の蹄のようだった。ヴァレリアンとかヴァレリーとか、そんな名前だった」
「名前? どうしてご存じなんですか?」
「話をしたからさ。そうして、恐ろしい古代の、我々の歴史が始まる以前の秘密を語り聞かせてくれたんだ。「お前は魔族の雑種のようだが、自分が何者で、これからどうなるかわかるか?」と」
クラフトマンはふうっとため息した。
「「この霧は毒と呪いだ、もしもお前が人間を好んで食べているならば恐ろしい熱病に苛まれるだろう。お前たち魔族は造られた支配種族で、荒んだ場所と愚民を力づくで統治する道具だ。人を食べる習性は野性の肉食獣と同じで、人口調整して自滅を防ぐため。銀や日光へのアレルギーがあるのは必要に応じて管理や処分するため。この霧は、度が超えたときにまとめて殺す魔法なんだ」と。「リセット機能」だのと」
「そういう話、先史時代の研究者の間では有名な説なのよ。お母様からもよく聞いている。こんな霧がどうとかは、よくわからないけど。たぶんパパが会ったのは魔族やエルフを魔術の人工進化で造った超古代の魔術師の生き残りだったのかもね」
ルントゥが口を挟んで説明してくれる。
クラフトマンが引き継いで話を続けた。
「当時は鉱山や冶金をやっていたが。先史時代の謎の歴史になんか興味を持って調べるようになったのは、それからだ。資料館の埃を被った銅版画で見つけたときには心底に驚いたものだった。そうそう、もう一つ、あの悪魔のヴァレリアンが言っていたことがある。この霧は、特定の因子を持った人間を強暴化させて魔族を襲わせるんだと。あのときは事実その通りになって、熱病でバタバタ倒れて寝込んでいた魔族たちを狂ったようになった人間たちが大勢殺した。歴史記述でも「反乱が散発した」と書かれているくらいにはね」
「でもクラフトマンさんは無事だったんですね」
「私は純血の魔族ではないし、めったに人間の肉なんか食っとらんかったから」
クラフトマンはさもおかしげに笑った。