乳吸鬼♀&未来偵察メイド:悪魔と共に在る世界  ※(関連作の目次リンクあり)
(2)
 いつしか、レトラは自分がどうにか起きていることさえ忘れていた。
 とっくに考えることなどなく、もうあと数日間か、早ければ数時間で終わってしまうのかもしれない人生で、最後の孤独な安らぎを慎ましく貪る。それは現実からの逃避や放棄なだけでなく、彼女に許された最後の抵抗の形だったのかもしれなかった。無意味に怯えたり泣き叫んだりするのは嫌だったし、どうにもならないというのなら、せめて泰然自若の振りでもしていたい(昔から変に気が強いところがあって、辛がったり痛がったりせずに我慢してしまう方だった性分?)。
 苦しいことも辛いが、それを訴えて誰にもわかってもらえないのも辛い。どうせ慰めたり助けて貰えるとは思えないし、だったら自分で辛さを倍増させても余計に悲惨なだけ。悲嘆に暮れるのをサボって、少しでもいざというときのために気力や体力を残しておいた方が得というもの。

(ああそうか、こんなふうだから「可愛げがない」って拒否られたんだ)

 同じ村で、ちょっとだけ気のあった男の子が選んだのは、別の友達の女の子。その女友達だって嫌な子ではなかったけれども(仲はいいくらいだった)、レトラより感情表現が上手で甘える態度が男には魅力的だったのか、単に好みとか偶然の成り行きのせいか。「高嶺の花」と敬遠されて、挙げ句が罪なくして檻の中、しかも「供出」に選ばれた一因はまだ貞操を守って処女だったこと。実にやりきれない。それでもとりあえず彼ら(友人のカップル!)はひとまず無事なのだろうから、やっかみながらも無事と幸福を祈っておいてやろう。「今度また会ったら愚痴りたい」とふと思って、その「今度」というのが永久に二度とないかもしれないのに思い至り、沈み込む。
 まどろんでいながら目を開けたままで、さまよう視線で眺めれば、向かいの檻の小さな少年が手前を走る排水路に立ち小便していたような。

(あー、男は便利そう)

 それでつい、檻の片隅にある不浄の箱をチラと見てしまう。女はそれでスカートで隠しながら用を足して、檻の前の排水溝に自分で捨てるのだ。ここは天下の往来で、自分たちは品定めに並んだ陳列品なのだから。本来だったらあの小さな少年に同情するべきだろうが、無感動になっていて何も感じないあたり、心が擦り切れている。
 こんな手足を伸ばして横にすらなれない、手狭で、女や子供ならかろうじて立てる檻の中。背後左右を板に囲まれて、天井も古びた分厚い木の板で、全面の鉄格子の扉からは光。板の影と、外部の光の空間あたりを見つめながら、ぼんやりと虚脱状態に陥っていた。
 ふと気配を感じ、横目に視線を投げかけると、足を止めた人影。まだ若い男で、ダークグレーのフード付きマントの格好からすると、どことなく旅人のような印象を与える。

「なによ」

 つい喧嘩腰になってしまう。我知らず目つきが血走った白眼視をぶしつけに投げ返してしまっている自覚。「たまに不機嫌だと近寄りがたい、美人なのでよけいにキツく見える」と言われた記憶が脳裏をよぎる。
 こんなふうに見世物にされて値踏みされているということで自尊心を激しく傷つけられていた。頭の中で「良さげな相手なら憐れみを乞うたり媚びを売ってでも買い取りと助けを求めるべき」と、理性と利己主義が囁いていたけれど、得体の知れない攻撃性のようなものが沸き上がってくる。この男がどうとかではなく、置かれた境遇と環境でのストレスが限界マックスに来ていたらしい。
 だから、とった行動も破れかぶれや捨てばちで喧嘩腰じみた挑発になる。
< 3 / 31 >

この作品をシェア

pagetop