乳吸鬼♀&未来偵察メイド:悪魔と共に在る世界 ※(関連作の目次リンクあり)
(3)
その新しい「ご主人様」とも「雇用主」とも言える人物は、魔族ではあっても片親がドワーフなのだという。エルフやドワーフなどは上位種族であって、準支配階級ではあるけれども「人間を食べない」。そして彼も、付き合い以外ではめったに人肉を口にしないそうで、替わりの栄養剤に特殊なブドウから作った「血のワイン」を愛飲しているのだそうさ。
レトラからすれば僥倖な出会いだろうか。
その年配の混血魔族の男はアティック・クラフトマンと名乗った。寿命が長いとされる魔族で、こんな初老の姿に見えるならば高齢だろうし、百歳くらいは過ぎているのかもしれない。
「義理の娘というのも、半分は人間の血筋なものでねえ。人間との混血でも、人によって違うが、うちのルントゥは「共食いなんて嫌だ」って口なのさ。それで、あの子は君みたいな人間の女と仲良くして、魔法で出させた母乳を飲んでいる」
「母乳?」
たまに血を好んで飲む吸血鬼のことは聞いたことがあったが、そのもっと穏健でマイルドなやり方というわけか。しかもそれが女性同士であれば、無理強いしたり襲うまでもないだろう。凶暴な捕食者や虐待者と二択であれば、まだ同性から乳房に吸いつかれる方が圧倒的に耐えられる。
(なるほど? 私はメイドと乳牛ですか!)
なんとなく、妙に胸元をジロジロと見られていたように思っていたけれど、クラフトマン本人が雑談でそれとなく自白した「スケベ心」以外ではそんな事も考えていたのだろうか。言い訳するように「ドワーフの親族のところのお手伝いさんも需要ありそうだったので」とも。
ひとまず助かったようだが、それは自分一人のことでしかない。他のより多くの犠牲者たちの悲惨が解決したわけでないのだから。この男や義理の娘はさほど人間に悪意はなくとも他の魔族はそうではないし、彼らもまた巨大な悪意の一部と言えなくもない。
夜道を並んで歩きながら(魔族に連れられて温和な雰囲気でというのは予想外ではあった)、レトラは安堵こそしつつも思いは少し複雑だった。
(4)
クラフトマンの家に向かう途中の道で、血まみれの逃亡奴隷の男が、狂乱して刃物を振り回しながら走り回っているのに出くわした。レトラと同じ人間だった。道端で倒れているのは、どうも上級下僕階級のエリートがめった刺しにされたものらしかった。同じ人間同士で、被害者と加害者が逆転して小さな反乱劇と革命パニックの修羅場。
「近寄るなよお! 近寄るなら、このガキを殺してやる! お、俺をここから逃がしてくれたら、殺さず解放してやるよ! 俺だって鬼じゃねえ、こんなことやりたかあなかったんだ!」
震える声と、極度に興奮した面差しで、血塗られた刃物の切っ先を拘束した人質、怯える子供の首元に突きつけている。どうも身なりからすれば、その子供は上流階級なのだろう。同じ奴隷や下層民の子供を人質にしたところでこの場でたいした効果はないだろうし。
汚れた男の手が子供の髪をつかんで揺さぶる。
すっかり怯えきった幼児は声を上げて泣くこともできない。
「おとなしくしろ! こ、殺しやしない、殺しやしないから! ちゃんと助けてやる。このクソみてえな場所から出られたら、ちゃんと離してやるからよお! お、俺だって、てめえみてえなガキなんか殺したくもねえ!」
暗闇に、街路灯の揺れる炎に照らされて、鬼気迫る姿と有様であった。
犯人の逃亡奴隷男は、レトラとクラフトマンを見るとギョッとした顔になる。だがすぐに覚悟を決めたようだった。
突然にあっさりと人質の子供を離して、「早く行け」とやや小声で脇に押しやった。そして「あんなクズみてえな親父みたいになるなよ! でないと最後は恨まれて殺されるんだ! あ、俺みたいにもなるんじゃあねえぞッ!」とヒステリックに喚き立てる。びっくりした子供は走り出して転び、泣きながら立ち上がって走り出して、近くに出てきていた店の主婦らしき女にすがりついた。
そのやばい男は仕切り直し、向き直った。
「てめえ魔族だな? おい! 嬢ちゃん、離れてろ! この機会に一匹ぶち殺してやる! この「二十戦のラルティ」、ただでは死なん! たとえ差しちがえてでも、てめえらクソ魔族の一匹くらいは地獄に送っちゃる! それで世の中がちったあきれいになるってもんだろ? ああっ?」
その新しい「ご主人様」とも「雇用主」とも言える人物は、魔族ではあっても片親がドワーフなのだという。エルフやドワーフなどは上位種族であって、準支配階級ではあるけれども「人間を食べない」。そして彼も、付き合い以外ではめったに人肉を口にしないそうで、替わりの栄養剤に特殊なブドウから作った「血のワイン」を愛飲しているのだそうさ。
レトラからすれば僥倖な出会いだろうか。
その年配の混血魔族の男はアティック・クラフトマンと名乗った。寿命が長いとされる魔族で、こんな初老の姿に見えるならば高齢だろうし、百歳くらいは過ぎているのかもしれない。
「義理の娘というのも、半分は人間の血筋なものでねえ。人間との混血でも、人によって違うが、うちのルントゥは「共食いなんて嫌だ」って口なのさ。それで、あの子は君みたいな人間の女と仲良くして、魔法で出させた母乳を飲んでいる」
「母乳?」
たまに血を好んで飲む吸血鬼のことは聞いたことがあったが、そのもっと穏健でマイルドなやり方というわけか。しかもそれが女性同士であれば、無理強いしたり襲うまでもないだろう。凶暴な捕食者や虐待者と二択であれば、まだ同性から乳房に吸いつかれる方が圧倒的に耐えられる。
(なるほど? 私はメイドと乳牛ですか!)
なんとなく、妙に胸元をジロジロと見られていたように思っていたけれど、クラフトマン本人が雑談でそれとなく自白した「スケベ心」以外ではそんな事も考えていたのだろうか。言い訳するように「ドワーフの親族のところのお手伝いさんも需要ありそうだったので」とも。
ひとまず助かったようだが、それは自分一人のことでしかない。他のより多くの犠牲者たちの悲惨が解決したわけでないのだから。この男や義理の娘はさほど人間に悪意はなくとも他の魔族はそうではないし、彼らもまた巨大な悪意の一部と言えなくもない。
夜道を並んで歩きながら(魔族に連れられて温和な雰囲気でというのは予想外ではあった)、レトラは安堵こそしつつも思いは少し複雑だった。
(4)
クラフトマンの家に向かう途中の道で、血まみれの逃亡奴隷の男が、狂乱して刃物を振り回しながら走り回っているのに出くわした。レトラと同じ人間だった。道端で倒れているのは、どうも上級下僕階級のエリートがめった刺しにされたものらしかった。同じ人間同士で、被害者と加害者が逆転して小さな反乱劇と革命パニックの修羅場。
「近寄るなよお! 近寄るなら、このガキを殺してやる! お、俺をここから逃がしてくれたら、殺さず解放してやるよ! 俺だって鬼じゃねえ、こんなことやりたかあなかったんだ!」
震える声と、極度に興奮した面差しで、血塗られた刃物の切っ先を拘束した人質、怯える子供の首元に突きつけている。どうも身なりからすれば、その子供は上流階級なのだろう。同じ奴隷や下層民の子供を人質にしたところでこの場でたいした効果はないだろうし。
汚れた男の手が子供の髪をつかんで揺さぶる。
すっかり怯えきった幼児は声を上げて泣くこともできない。
「おとなしくしろ! こ、殺しやしない、殺しやしないから! ちゃんと助けてやる。このクソみてえな場所から出られたら、ちゃんと離してやるからよお! お、俺だって、てめえみてえなガキなんか殺したくもねえ!」
暗闇に、街路灯の揺れる炎に照らされて、鬼気迫る姿と有様であった。
犯人の逃亡奴隷男は、レトラとクラフトマンを見るとギョッとした顔になる。だがすぐに覚悟を決めたようだった。
突然にあっさりと人質の子供を離して、「早く行け」とやや小声で脇に押しやった。そして「あんなクズみてえな親父みたいになるなよ! でないと最後は恨まれて殺されるんだ! あ、俺みたいにもなるんじゃあねえぞッ!」とヒステリックに喚き立てる。びっくりした子供は走り出して転び、泣きながら立ち上がって走り出して、近くに出てきていた店の主婦らしき女にすがりついた。
そのやばい男は仕切り直し、向き直った。
「てめえ魔族だな? おい! 嬢ちゃん、離れてろ! この機会に一匹ぶち殺してやる! この「二十戦のラルティ」、ただでは死なん! たとえ差しちがえてでも、てめえらクソ魔族の一匹くらいは地獄に送っちゃる! それで世の中がちったあきれいになるってもんだろ? ああっ?」