甘い痛みは秘密の夜に〜マスクを外した天才パティシエは、独占欲の塊でした〜
 黙ってしまった雛子をジッと見つめる視線はどこか不安そうに揺れている。もっと喜んでもらえると思っていたのだろう。

 知らなかったら喜んでいた。知りたくなかったと、思う自分が嫌だった。

「教えてほしかった」

 雛子は震える手で自分の携帯画面を差し出して、SNSの画面を見せた。差し出された画面に首を傾げ、視線を落とした店主の目は見開かれた。

「……あー」
 
 その声はどこか諦めにも似た声で、あまり嬉しそうには聞こえない。バレたくなかった、雛子にはそう感じられた。

「がっかりした?」
「え?」
「いや……なんていうか……どうせならもっと凝ったの売れよって思ったのかなって」

 一瞬言われた意味がわからず、今度は雛子が首を傾げる。がっかりする? どうして。それよりもちゃんと確認したかった雛子は問いかける。

「本当に、この記事の秋葉弓弦さんなんですか?」

 それにコクリと頷かれて、雛子の胸中は複雑だった。欲しかったはずの答えなのに、嬉しいとならない。それは雛子が、だけではない。主――秋葉自身もそう思っているのだろうと感じとる。

「ごめんなさい」
「え?」

 雛子の謝罪に秋葉は弾かれたように視線を上げた。

「迷惑ですよね……本当なら知らんぷりしていたら良かった。でもできなくて……」
「待って。どういうこと?」

 逆に俯いたままの雛子に秋葉が問いかけるが、その声が今度は明確な戸惑いを孕んでいる。雛子は身を小さく縮めたまま何も言わない。そのどこか張りつめたような空気はお互いの肌を刺すようで、沈黙が痛い。
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