甘い痛みは秘密の夜に〜マスクを外した天才パティシエは、独占欲の塊でした〜
独占欲は甘い痛みでわからせて
「いつも感想くれる。嬉しかったよね、ああいう生の声はさ」
 
 自分が言わなくても、たくさんの人から賞賛を受けているはずではないか。そう思ったがそれはどうしてか呑み込んでしまった。

「俺はさ、こういうシンプルなケーキが好きなの。でももうこういうのは求めてもらえない。常に斬新さや複雑なケーキを期待される。だからさ、これは俺にとったらストレスの捌け口だったわけ。シンプルなものに飢えて、無心になれる時間が欲しくてだから……気まぐれの店」
 
 それでも数ができる。さすがに廃棄は躊躇われた。知人の助言でこの店を開いた。宣伝はせず、訪れてくれる客へ気まぐれに売る。不思議と買いに来る客はひとりで、ひとつふたつを買って帰る。その日に楽しみに食べる姿が目に浮かんだ。誰かとでもいい、ひとりでだっていい。誰かの時間に自分の作ったものが寄り添えている。それを肌で感じたら単純に嬉しくなった。菓子作りをはじめたことの気持ちを思い出した……秋葉はそう言った。

「名前、聞いてもいい?」

 秋葉の問いかけに雛子は戸惑いを隠せないが、素直に頷いて答える。

「雛子」
「雛子ちゃん。可愛い名前」

 クスッと笑われて雛子の頬はカッと一瞬で熱を放った。セリフにもだが単純にマスクを外した素顔に落ち着かない。そして油断していたのもある。マスクが外されると自ずと視線が口元を追い、胸が逸りだすから。

「雛子ちゃんがいろいろ話してくれて嬉しかった。好きなもの、好きになった理由。俺も昔からシンプルなものが好きだったんだよ。なんか今はもう遠いところに行っちゃった感はあるけど。でもこのオムレットは割と自信作」

 そう言って、フッと笑った口元に雛子は息を呑んだ。秋葉は真剣に話をしているのに、視界の端に見えたそれへと意識が持っていかれる。こんな時に何を思うのか。でも、こんな時だから余計にダメだと思った。
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