甘い痛みは秘密の夜に〜マスクを外した天才パティシエは、独占欲の塊でした〜
 異性を見る時、雛子はまず口元を意識する。
 モデルのように綺麗な歯並びに素敵! は思ってもときめくことはない。雛子の心を震わせるのはやはり八重歯なのだ。
 唇の隙間からちらりと覗く、肉食獣のような牙。そんなイメージでも、なぜかあの尖った白い牙は雛子にとっては可愛い。

 ――八重歯で笑顔……最高。

 それを見つけた時の雛子の世界は薔薇色に染まる。八重歯があればそれだけで好感度がアップし極端ながら簡単に落ちてしまう。八重歯に笑顔、それに目がない。それが今や。
 
 現在のマスク社会は素顔も隠し、雛子の求める魅力的な八重歯を探すどころではない。不織布という名の防護壁……雛子は街を歩いていても、異性と出会う時でも以前ほどときめく日常を送れなくなった。そんなマンネリ化した毎日に光が射す。

 それが『カプリス・ドゥ・ミニュイ』たまたま見つけた気まぐれの夜のスイーツ店だった。
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