配信終了後、幼馴染実況者の本性が悪すぎる
凪の部屋のゲーム機が目についた。

あ……。

その当時、私は動画配信サイトで、ゲームの実況を見るのにハマっていた。

私が見ている実況者の中には、
普段の自分とギャップがあるって語っている人もいた。

けど。

違う名前で、違うキャラクターを演じているその人たちは凄く楽しそうで。
私は密かに憧れを抱いていた。

だから、思った。

今の自分を好きになれないなら、
“違う自分”を作り出してしまえばいいんじゃないかって。

“違う自分”になれる場所があれば、
凪が今より少し楽になれるんじゃないかって、そんな考えが浮かんだ。

そして気づけば、思いついた言葉が口から出た。

「なら――演じてみたらどうかな!?」

「は?」

唐突な提案に、
凪が、急に何言ってんだって顔で眉を寄せる。
けど、私は気にせず言葉を続けた。

「別人になるの!」

「別人……?」

「そう!今の自分が好きになれないなら、真逆の自分を演じてみるとかどう?
それで、そのキャラでゲーム実況するの!」

「は?ゲーム実況?お前……何言って……」

「ほら。凪は、口が悪いし」

「は?」

「俺様何様野郎だから」

「おい」

「だから、あえて真逆の優しげ紳士な王子様キャラとかどう!?」

「は?」

「だから!実況中だけ、違う自分になってみるの!それもゲーム感覚で。ちょっと面白そうじゃない?」

我ながらふざけた提案だと思った。

正直、凪が乗ってくれる希望も薄かった。

けれど、私は必死だった。

どうにか、殻に閉じこもった凪を連れ出したくて。色々思考を巡らせた。

そして――次に続けた言葉で、
一気に凪の気持ちが揺れた。

「もし……人気出て、収益化出来たら、
おばあちゃんの家計助かるかもしれないよ!?」

「……っ」

“おばあちゃんのため”

その言葉が凪の感情を確かに動かした。

動画配信で収益化出来ている人なんてごく僅か。

けれど、中学生がお金を稼ぐ方法なんて知れているわけで。

当時おばあちゃんに引き取られたばかりの凪にとって、私のその言葉は魅力的にうつったらしい。

凪は、少し考える様子を見せた後――ボソッと呟いた。

「俺が……別人になっても笑うなよ」

「――!!」

思っても見なかったその一言に顔をあげる。

「笑わない!!」

何度も何度も頷く。
まさか、やると思わなくて。

けれど、次の凪の言葉で心臓がひっくり返った。

「てか、もちろんお前もやるんだよな?」

「え!?」

「は?俺だけにやらすつもりだったのかよ」

「いや、だって……私、人と話すとか苦手だし…」

弱々しく返す。
自分から提案している手前、やらないと言いにくい。
けど、自分がゲーム実況なんて考えられない。

私なんかにはむり。

そんな思考が頭の中を埋め尽くしかけたその瞬間、凪は予想外の言葉を返した。

「他人と話すんじゃねぇだろ」

「え?」

「“俺と”話すんだ」

「どういうこと?」

「二人で実況すんなら、話すのは俺とだろ?」

「あ……」

「相手の顔色伺う必要ねぇだろ」

「たしかに……」

凪に言われて初めてそのことに気づいた。

怖いのは他人の視線や声のトーン。

けれど、実況で話すのは凪とだけ。
リスナーはあくまで鑑賞者。
視線も声もそもそも画面越しじゃわからない。

そのことに気づいた瞬間。

ドクっと胸が高まった。

私が――配信者になれるの?

その事実にどうしようもなくワクワクした。

「じゃあ……ふたりでやってみる?」

「……しょうがねーな。足引っ張んなよ」

「な…!?大丈夫だし!多分……」

「ははっ」

その時、久しぶりに楽しそうに笑った凪を見た。

その瞬間、この顔をずっと隣で見ていられるなら、実況でも何でもやってやるって思った。

――そうして始まったのが“なぎふぅゲーム実況チャンネル”だった。

凪の狙い通り。
私は、実況中、本当の自分を曝け出せた。

多分、凪がいてくれる安心感が強かったからかもしれない。

凪を救いたくて始めたチャンネルだったけれど、気づけば救われていたのは私の方だった。

実況中だけは本当の自分でいられる私と、
実況中は本当の自分を偽る凪。

私にとって配信は、唯一、本当の自分を出せる居場所になっていたけれど、
凪にとっては本当の自分を隠さないといけない場所で。

いつからか。

ナギの人気が出れば出るほど、“本当の凪”を否定されていくようで――

だからこそ。

苦しくて、ずっと願ってた。

みんなに本当の凪を知って欲しいって。

不器用な凪をちゃんと知って欲しいって。
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