身代わり結婚のはずが、冷徹眼鏡公爵様に溺愛される〜元新婦に身体を押し売りされて、幽霊として憑かれているのですが!?〜
18 現場は緊迫した空気に包まれております
ダンスを終えた私達は、第二王子殿下に挨拶に伺った。
「ルドルフ殿下。今宵は殿下を拝謁でき、大変光栄に存じます」
アルフレッド様が胸に手を当て完璧な礼をとる。私もベアちゃんに仕込まれたカーテシーを捧げる。
「あぁ、ヴァレンシュタイン公爵。堅苦しい挨拶はこの辺にして、二人共に楽にしてくれ」
そう言って王子様はフッと親しげに笑った。
「……それより、お前と夫人とのダンス、遠目から見させてもらったよ。お前たち、随分と息が合っていたじゃないか。私の見間違いかな?」
「……な!? ……えぇ、殿下の見間違いかと存じます」
アルフレッド様は眼鏡を押し上げる。
「ん? なんだアル、動揺してるのか? 今度執務室で詳しく聞かせろよ、あははっ」
王子様は楽しげに声を出して笑う。
「殿下……っ」
アルフレッド様は不機嫌そうな視線を王子様に送った。
(ん? ずいぶんと親しげ……)
そう思って見つめていると、王子様の視線がこちらに向いた。
「ヴァレンシュタイン公爵夫人、マリアンヌと是非話してやってくれ。……彼女も喜ぶだろう」
一見穏やかそうな口調だったが、その瞳には有無を言わない雰囲気を孕んでいる。
「……は、はい」
ピリッと緊張感が漂う。まるで蛇に睨まれた蛙のようになり、呼吸が止まりそうになった。
「……殿下、後ろが詰まっておりますので、私達はこれで失礼いたします」
アルフレッド様が割って入るように、王子様に声を掛ける。
「あぁ、そうだな。アル、また後程」
「はい」
アルフレッド様は一礼すると、私の肩を抱いて歩き出した。
(……王子様は、ベアちゃんがマリアンヌ様を避けていたことを、知ってるってことよね……)
王子様の鋭い瞳を思い出すと、まだゾクリと寒気がする。
近くにベアちゃんがいると思って見回すが、姿は見えない。あまり、王子様には近づきたくないのかもしれない。
「……はぁ、まったく。殿下ときたら、婚約者のこととなるといつもああだ……」
ブツブツと独り言のような囁きが、耳元で聞こえてくる。
(――!?)
アルフレッド様は私の肩をしっかりと抱きながら、何か考え事をしているようだ。
彼のしっかりとした腕の感触や、体温が伝わってきて、心臓が胸の奥を激しく打ちつける。
(どどどうしよう……っ。アルフレッド様は助けてくれたんだろうけど……っ)
私が黙って硬直していると、アルフレッド様は至近距離でこちらを見下ろす。
「ん? どうした?」
「……あ、その、……肩が……」
「肩……? ――っ!?」
私の肩を抱いていたことに気付いたアルフレッド様は、明らかに動揺したように手を離す。
「あ、その……、す、すまない……」
視線を逸らしながら、眼鏡を押し上げた。
「いえ、だ……大丈夫ですので……」
顔から火が出るかと思うくらいに、熱が急上昇する。
照れ臭くて、私はアルフレッド様の顔が見られず俯いた。
(あ……、暑い……っ)
私はパタパタと顔に向かって手で仰いでいると、扇子を持っていることを思い出した。
ふわふわと羽のついた扇子を広げて仰ぐと、柔らかな風が吹いた。
(はぁ、涼しい〜。便利ーっ!)
しばらく扇子を仰いでいると、ふと視線を感じて顔を上げる。
(……!?)
アイスブルーの瞳がこちらを真っ直ぐ捉えていた。その瞳は私の全てを見透かしてしまいそうで、再び鼓動の高鳴りはじめる。
(え……、アルフレッド様……?)
「ヴァレンシュタイン公爵閣下」
私たちが見つめ合っていると、見知らぬ紳士が声を掛けてきた。
「……何だ」
アルフレッド様は眉間に皺を寄せて冷ややかな低音の声で返すと、紳士はビクッと身体を震わせる。
「――ひっ、も、申し訳ございません! 閣下にご挨拶をと思いまして」
そう言われて見ると、その紳士の後ろにも大勢の貴族たちが列をなしていた。
「あらあら、仲がよろしいですわね……。羨ましいですわ」
「はははっ、新婚ですからな」
そんな囁き声が耳に入ってくる。
(わっ、ガッツリ見られてた……っ!?)
私は恥ずかしくて、熱くなった頰を両手で押さえた。
その後私たちは、延々と続く貴族の挨拶に追われたのだった――。
「すみませんが、体調が優れませんの。主人にもここで休んでいるように言われてますのよ、おほほ」
私がそう言うと、若い男性は諦めて戻っていく。
「ふぅ……」
私は大きく息を吐いた。
これでもう何人目だろうか……。壁際にある豪華なソファに一人で座っていると、次々にダンスに誘われてしまった。
アルフレッド様は先程、大事なお仕事の話があると王子様に連れて行かれた。
なるべく早く戻るから、私はここで待っているように言われている。
彼はここを離れる際、“誰か誘いに来たら俺の名前を使え”と言い残していって、何のことだろうと思ったけど、このことだったんだと後になって気付いた。
(ベアちゃん美人だから、目立つんだろうな……。美人も大変だな……)
辺りを見回すが、さっきからベアちゃんの姿が見当たらない。
「……どこ行っちゃったの……?」
ベアちゃんもいないし、アルフレッド様もいない。
豪華なダンスホールで一人で座っていると、心細くなってしまう。
――その時。
『――スミレッ!!』
「ルドルフ殿下。今宵は殿下を拝謁でき、大変光栄に存じます」
アルフレッド様が胸に手を当て完璧な礼をとる。私もベアちゃんに仕込まれたカーテシーを捧げる。
「あぁ、ヴァレンシュタイン公爵。堅苦しい挨拶はこの辺にして、二人共に楽にしてくれ」
そう言って王子様はフッと親しげに笑った。
「……それより、お前と夫人とのダンス、遠目から見させてもらったよ。お前たち、随分と息が合っていたじゃないか。私の見間違いかな?」
「……な!? ……えぇ、殿下の見間違いかと存じます」
アルフレッド様は眼鏡を押し上げる。
「ん? なんだアル、動揺してるのか? 今度執務室で詳しく聞かせろよ、あははっ」
王子様は楽しげに声を出して笑う。
「殿下……っ」
アルフレッド様は不機嫌そうな視線を王子様に送った。
(ん? ずいぶんと親しげ……)
そう思って見つめていると、王子様の視線がこちらに向いた。
「ヴァレンシュタイン公爵夫人、マリアンヌと是非話してやってくれ。……彼女も喜ぶだろう」
一見穏やかそうな口調だったが、その瞳には有無を言わない雰囲気を孕んでいる。
「……は、はい」
ピリッと緊張感が漂う。まるで蛇に睨まれた蛙のようになり、呼吸が止まりそうになった。
「……殿下、後ろが詰まっておりますので、私達はこれで失礼いたします」
アルフレッド様が割って入るように、王子様に声を掛ける。
「あぁ、そうだな。アル、また後程」
「はい」
アルフレッド様は一礼すると、私の肩を抱いて歩き出した。
(……王子様は、ベアちゃんがマリアンヌ様を避けていたことを、知ってるってことよね……)
王子様の鋭い瞳を思い出すと、まだゾクリと寒気がする。
近くにベアちゃんがいると思って見回すが、姿は見えない。あまり、王子様には近づきたくないのかもしれない。
「……はぁ、まったく。殿下ときたら、婚約者のこととなるといつもああだ……」
ブツブツと独り言のような囁きが、耳元で聞こえてくる。
(――!?)
アルフレッド様は私の肩をしっかりと抱きながら、何か考え事をしているようだ。
彼のしっかりとした腕の感触や、体温が伝わってきて、心臓が胸の奥を激しく打ちつける。
(どどどうしよう……っ。アルフレッド様は助けてくれたんだろうけど……っ)
私が黙って硬直していると、アルフレッド様は至近距離でこちらを見下ろす。
「ん? どうした?」
「……あ、その、……肩が……」
「肩……? ――っ!?」
私の肩を抱いていたことに気付いたアルフレッド様は、明らかに動揺したように手を離す。
「あ、その……、す、すまない……」
視線を逸らしながら、眼鏡を押し上げた。
「いえ、だ……大丈夫ですので……」
顔から火が出るかと思うくらいに、熱が急上昇する。
照れ臭くて、私はアルフレッド様の顔が見られず俯いた。
(あ……、暑い……っ)
私はパタパタと顔に向かって手で仰いでいると、扇子を持っていることを思い出した。
ふわふわと羽のついた扇子を広げて仰ぐと、柔らかな風が吹いた。
(はぁ、涼しい〜。便利ーっ!)
しばらく扇子を仰いでいると、ふと視線を感じて顔を上げる。
(……!?)
アイスブルーの瞳がこちらを真っ直ぐ捉えていた。その瞳は私の全てを見透かしてしまいそうで、再び鼓動の高鳴りはじめる。
(え……、アルフレッド様……?)
「ヴァレンシュタイン公爵閣下」
私たちが見つめ合っていると、見知らぬ紳士が声を掛けてきた。
「……何だ」
アルフレッド様は眉間に皺を寄せて冷ややかな低音の声で返すと、紳士はビクッと身体を震わせる。
「――ひっ、も、申し訳ございません! 閣下にご挨拶をと思いまして」
そう言われて見ると、その紳士の後ろにも大勢の貴族たちが列をなしていた。
「あらあら、仲がよろしいですわね……。羨ましいですわ」
「はははっ、新婚ですからな」
そんな囁き声が耳に入ってくる。
(わっ、ガッツリ見られてた……っ!?)
私は恥ずかしくて、熱くなった頰を両手で押さえた。
その後私たちは、延々と続く貴族の挨拶に追われたのだった――。
「すみませんが、体調が優れませんの。主人にもここで休んでいるように言われてますのよ、おほほ」
私がそう言うと、若い男性は諦めて戻っていく。
「ふぅ……」
私は大きく息を吐いた。
これでもう何人目だろうか……。壁際にある豪華なソファに一人で座っていると、次々にダンスに誘われてしまった。
アルフレッド様は先程、大事なお仕事の話があると王子様に連れて行かれた。
なるべく早く戻るから、私はここで待っているように言われている。
彼はここを離れる際、“誰か誘いに来たら俺の名前を使え”と言い残していって、何のことだろうと思ったけど、このことだったんだと後になって気付いた。
(ベアちゃん美人だから、目立つんだろうな……。美人も大変だな……)
辺りを見回すが、さっきからベアちゃんの姿が見当たらない。
「……どこ行っちゃったの……?」
ベアちゃんもいないし、アルフレッド様もいない。
豪華なダンスホールで一人で座っていると、心細くなってしまう。
――その時。
『――スミレッ!!』