身代わり結婚のはずが、冷徹眼鏡公爵様に溺愛される〜元新婦に身体を押し売りされて、幽霊として憑かれているのですが!?〜

21 このお菓子はとっても甘いです(2)

 アルフレッド様の許可を得て扉を開けると、彼はデスクで書類のような物に目を通していた。
 特に変わった様子はなくてホッとする。 

「……何の用だ」
 アルフレッド様は、こちらには視線すら送ってくれなかった。

(まだ、怒ってるのかも。謝らなくちゃ……)
 緊張で震える手を握りしめる。

「え……と、昨夜はその……、約束を破り、会場から勝手に出てしまったこと、本当に申し訳ありませんでした……っ」
 ガバッと頭を思いっきり下げた。

 しばらくの沈黙の後、溜息が聞こえてくる。
「……頭を上げろ」

 そう言われ頭を上げると、アルフレッド様と目が合う。彼は視線をゆっくりと外した。

「……え、その、俺も……少々、きつく言いすぎた。わ……悪かった……」
 アルフレッド様が謝罪の言葉を言ってくれるとは思わず、驚いてしまった。

「いえ、そんな! 私は公爵家の評判を落とすようなことをしてしまったのだと……」

「いや、それはない。あれくらいのことで、ヴァレンシュタイン公爵家の評判が落ちるわけがないだろう。ただ、あまり勝手な行動は謹んでくれ」
 
「……は、はい、分かりました……。いつも冷静なアルフレッド様があんなに必死になるほど、私、ご迷惑をおかけしたようで……」

「あ、いや、違……っ。あれは君がし、しんっ、…………何でもない……」

 アルフレッド様は何かを言いかけたが、クイッと眼鏡を上げて押し黙ってしまった。

 カチコチ……カチコチ……と、時計の振り子の音が部屋に響いている。
 これ以上ここにいたら、私は邪魔になってしまう。

「……それでは、私はこれで失礼しますね……」
 足を翻そうとした時。

「あっ、ちょっと待て」
 引き止められる。

「はい……?」
「……これを……君に……」

 アルフレッド様は、どこからか箱のような物を出して机の上に載せた。

 戸惑いながらデスクに近づいて見ると、可愛くブルーのリボンが巻いてある箱だった。

「えっ! これを私に!?」
「……あぁ、まぁ、なんだ、王宮の者が丁度これの話していたんだ。たまたま通り掛かったから、ついでだ」

「ありがとうございます! 今、開けてもいいですか?」
「……好きにしろ」

 私はリボンを解いて、厚紙の箱の蓋を開ける。
 目に飛び込んできたのは、赤や黄色など、色とりどりの綺麗なお菓子だった。

「わぁ、綺麗! 宝石みたい!」
「……パート・ド・フリュイだ。……食べてみればいい」
「パートド、ふぇ……?」

 私は一つつまみ、口に入れた。優しい甘さとフルーツの酸味が口に広がる。
 私のために用意してくれたんだと、胸が温かくなった。

「んっ、おいしいです! アルフレッド様、ありがとうございます……」
「……あぁ」
 彼はそうぶっきらぼうに返事をし、顔を隠すように眼鏡を押し上げる。
 
 もう一つ口に入れたところで、私はアルフレッド様が甘党なのを思い出す。

「……あの、折角なので、一緒に食べませんか?」
 私がアルフレッド様の前に箱を差し出すと、首を振った。
「いや、俺は……」
 
(あ、そっか。お仕事中で、手が汚れたら大変よね……) 

 私は一つ取り出して、アルフレッド様の口元に差し出す。

「はい、どうぞ。これなら書類は汚れませんよね?」
「――はっ!? なっ、なっ!?」

 そう言ってアルフレッド様は口をパクパクさせている。

(……あっ!? わ、私はいったい何をしてるのー!!)

 今になって、自分のした行動が信じられずに動揺してしまう。

「す、すみません! 私、失礼なことを……っ」

 慌てて手を引っ込めようとするとその腕を掴まれ、ゆっくりと唇が近づく。
 その一連の動きに、なんとも言えない色気を感じて息を止める。
 
「……っ!?」

 僅かに、指先に唇が触れるような感触がして、ドキッと鼓動が跳ね上がった。

(わっ、どど、どうしよう……っ)
 驚きと緊張で、掴まれた腕が震えている。 

 アルフレッド様はお菓子を口に入れると、もぐもぐと咀嚼しながら顔を逸らした。

「……ん、甘いな……」

 眉間に皺を寄せ不機嫌そうに呟いたアルフレッド様は、耳まで真っ赤だ。

 解放された腕に手を当てると、まだ震えている。
 ……呼吸が上手くできない。

(……さ、酸素が、足りないよぉ……)
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