身代わり結婚のはずが、冷徹眼鏡公爵様に溺愛される〜元新婦に身体を押し売りされて、幽霊として憑かれているのですが!?〜
5 探検の始まりです(2)
図書室から出て、庭園に向かう途中の長い廊下で、ふと立ち止まった。
「これって、肖像画?」
男性が描かれた何枚もの油絵が、ズラリと壁に飾られていた。
『えぇ、歴代の公爵様ですわ。一番手前が初代で一番最後が、先代になりますわ』
ベアちゃんの説明を聞きつつ、ゆっくりと歩みを進めながら一枚ずつ見ていった。
(アルフレッド様に似ている人もいる、……って、ご先祖だもん当たり前か……)
一番最後の肖像画に辿り着いた。
(この方が、アルフレッド様のお父様……)
黒い髪に、シャープな顎のラインは似ている。目元はアルフレッド様よりも切れ長だった。
「一年前に倒れたって言ったよね。病気だったの……?」
そう思って肖像画を見つめつつ、ベアちゃんに尋ねる。
『さぁ、そんな話は聞いたことはなかったですけれど。公爵様もお忙しかったみたいですし、無理が祟ったのかしらね』
「え、それって過労死……」
『そういえば、ヴァレンシュタイン公爵家は短命の家系だと聞いたことがありましたわ。遺伝なのかもしれないですわよ』
「短命!?」
それを聞いて不安になってきた。もしかしたら、体調不良なのに、無理をする人達なのでは……。
さっきベアちゃんが話してくれたことを思い出した。
先代公爵が急逝してから、一年間、凄まじい勢いで仕事をしてきたというアルフレッド様。
今朝がたまたまだったのかもしれないけど、朝食もあまり食べてなかったようだった。それで仕事をするなんて、体力が持つのだろうか。
(私が心配しても、しょうがないけど……)
そう自分に言い聞かせながらも、なぜか気になって仕方なかった。
廊下の奥に進み突き当たりの扉を抜けると、そのままガーデンテラスへ出られるようになっていた。
歴代公爵が並ぶ廊下の圧迫感から一気に解放される。
振り注ぐ光に目を細め、明るさに目が慣れてくると、色とりどりのチューリップや、スイセンが風に揺れているのが見えた。
「わぁ、綺麗! はぁ~、風が気持ちいいーっ!」
両腕を広げ、鼻からいっぱいに空気を吸い込んだ。緑のみずみずしい匂いがして、癒やされる。
やっぱり、慣れない豪華なお屋敷に緊張していたようだ。
『ふふっ、あなたは本当、何をしても楽しそうですわね。まるで幼子のようですわよ』
ベアちゃんは呆れたような、それでいて優しい瞳で笑った。
花壇の一角に青紫の絨毯が見えて、近づいてみる。小さな花をたくさん咲かせていた。
「あ、菫だわ! わぁ、可愛い!」
菫の花は自分の名前ってこともあり、特別な花だ。
『スミレ……? バイオレットのこと?』
ベアちゃんは不思議そうな顔をする。ここでは、バイオレットって呼んでいるらしい。
「そうなの。私の生まれた国では、この花のことをスミレって呼んでるんだよ。私と同じ名前なの」
『そうでしたのね』
ベアちゃんの瞳をじっと見つめた。今の彼女は透き通っていて、色はよく見えない。
私は自分の目を指差す。
「そういえば、ベアちゃんの瞳の色って、綺麗だよね。バイオレットと同じ色」
今朝メイドさんに支度してもらった時に、鏡に映った彼女の姿を思い出した。赤い髪や顔は当然美しかったが、深い青紫の瞳が印象的だった。
私は何気ない一言のつもりだったのだが、ベアちゃんは驚いたように目を見開いた。
『……え、……そう、と、当然ですわよ』
そう言って顔を背けたその横顔は、どこか切なげに見えた。
(ベアちゃん……? 私、何か失礼なことを言っちゃったのかな……?)
不安になってしばらく彼女を見つめていると、ふとどこからか視線を感じる。
お屋敷の二階を見上げると、ある一部屋に白い影が動いたような気がしたが、誰もいなかった。
(……? 気のせいかな?)
『スミレ、どうしましたの?』
「あの部屋って……? 左から二番目の窓」
『左から二番目? あら、あそこは冷血眼鏡の執務室ではないかしら?』
「え! そうなの? まさかっ」
(もしかして、見られていた!? いや、別にやましいことはなにもっ)
一瞬心臓が飛び上がったが、気持ちを落ち着かせる。
『あら、妻を監視でもなさってるのかしら。ふふっ、悪趣味だこと』
ベアちゃんは目を鋭く細め、嘲笑う。
「あ、勘違いかもしれないし……」
『スミレ! さっさと別の場所へ参りましょう! 不愉快ですわ!』
ベアちゃんに促されるまま、その場から遠ざかる。
私は離れる時、もう一度だけ二階の窓に視線を送った。
「これって、肖像画?」
男性が描かれた何枚もの油絵が、ズラリと壁に飾られていた。
『えぇ、歴代の公爵様ですわ。一番手前が初代で一番最後が、先代になりますわ』
ベアちゃんの説明を聞きつつ、ゆっくりと歩みを進めながら一枚ずつ見ていった。
(アルフレッド様に似ている人もいる、……って、ご先祖だもん当たり前か……)
一番最後の肖像画に辿り着いた。
(この方が、アルフレッド様のお父様……)
黒い髪に、シャープな顎のラインは似ている。目元はアルフレッド様よりも切れ長だった。
「一年前に倒れたって言ったよね。病気だったの……?」
そう思って肖像画を見つめつつ、ベアちゃんに尋ねる。
『さぁ、そんな話は聞いたことはなかったですけれど。公爵様もお忙しかったみたいですし、無理が祟ったのかしらね』
「え、それって過労死……」
『そういえば、ヴァレンシュタイン公爵家は短命の家系だと聞いたことがありましたわ。遺伝なのかもしれないですわよ』
「短命!?」
それを聞いて不安になってきた。もしかしたら、体調不良なのに、無理をする人達なのでは……。
さっきベアちゃんが話してくれたことを思い出した。
先代公爵が急逝してから、一年間、凄まじい勢いで仕事をしてきたというアルフレッド様。
今朝がたまたまだったのかもしれないけど、朝食もあまり食べてなかったようだった。それで仕事をするなんて、体力が持つのだろうか。
(私が心配しても、しょうがないけど……)
そう自分に言い聞かせながらも、なぜか気になって仕方なかった。
廊下の奥に進み突き当たりの扉を抜けると、そのままガーデンテラスへ出られるようになっていた。
歴代公爵が並ぶ廊下の圧迫感から一気に解放される。
振り注ぐ光に目を細め、明るさに目が慣れてくると、色とりどりのチューリップや、スイセンが風に揺れているのが見えた。
「わぁ、綺麗! はぁ~、風が気持ちいいーっ!」
両腕を広げ、鼻からいっぱいに空気を吸い込んだ。緑のみずみずしい匂いがして、癒やされる。
やっぱり、慣れない豪華なお屋敷に緊張していたようだ。
『ふふっ、あなたは本当、何をしても楽しそうですわね。まるで幼子のようですわよ』
ベアちゃんは呆れたような、それでいて優しい瞳で笑った。
花壇の一角に青紫の絨毯が見えて、近づいてみる。小さな花をたくさん咲かせていた。
「あ、菫だわ! わぁ、可愛い!」
菫の花は自分の名前ってこともあり、特別な花だ。
『スミレ……? バイオレットのこと?』
ベアちゃんは不思議そうな顔をする。ここでは、バイオレットって呼んでいるらしい。
「そうなの。私の生まれた国では、この花のことをスミレって呼んでるんだよ。私と同じ名前なの」
『そうでしたのね』
ベアちゃんの瞳をじっと見つめた。今の彼女は透き通っていて、色はよく見えない。
私は自分の目を指差す。
「そういえば、ベアちゃんの瞳の色って、綺麗だよね。バイオレットと同じ色」
今朝メイドさんに支度してもらった時に、鏡に映った彼女の姿を思い出した。赤い髪や顔は当然美しかったが、深い青紫の瞳が印象的だった。
私は何気ない一言のつもりだったのだが、ベアちゃんは驚いたように目を見開いた。
『……え、……そう、と、当然ですわよ』
そう言って顔を背けたその横顔は、どこか切なげに見えた。
(ベアちゃん……? 私、何か失礼なことを言っちゃったのかな……?)
不安になってしばらく彼女を見つめていると、ふとどこからか視線を感じる。
お屋敷の二階を見上げると、ある一部屋に白い影が動いたような気がしたが、誰もいなかった。
(……? 気のせいかな?)
『スミレ、どうしましたの?』
「あの部屋って……? 左から二番目の窓」
『左から二番目? あら、あそこは冷血眼鏡の執務室ではないかしら?』
「え! そうなの? まさかっ」
(もしかして、見られていた!? いや、別にやましいことはなにもっ)
一瞬心臓が飛び上がったが、気持ちを落ち着かせる。
『あら、妻を監視でもなさってるのかしら。ふふっ、悪趣味だこと』
ベアちゃんは目を鋭く細め、嘲笑う。
「あ、勘違いかもしれないし……」
『スミレ! さっさと別の場所へ参りましょう! 不愉快ですわ!』
ベアちゃんに促されるまま、その場から遠ざかる。
私は離れる時、もう一度だけ二階の窓に視線を送った。