とろけてほどけて愛になる〜友達の恋人の友達は、私を癒して甘やかす〜
「お疲れ様」
「楓介くんもお疲れ様」

 楓介の声を聞いただけで緊張がほどけていくのは、彼の前では我慢しなくていいと思えるようになったからだろう。

 これまで祥子や光一の隣で、当たり前のように見てきた笑顔だが、今日はいつも以上に親近感を覚えた。

 だが楓介が持っているスーパーの袋を見た途端に怪訝な表情になる。

「材料はあるって言ってなかった?」
「あはは。だってそう言えば、愛梨は絶対に来てくれって思ったからね」

 そこまで読まれていたことに、嬉しさと恥ずかしさを覚える。

「タクシー乗る? 歩いても行けるけど」
「せっかくだから歩いていくのもいいね」
「愛梨が疲れてないなら、そうしようか」
「お腹を空かせたら、もっと美味しく食べられる気がする」
「うん、賛成」

 顔を合わせて笑い合うと、楓介が手をスッと差し出したので、愛梨はドキッとした。

「今日も触れるかな」

 楓介にだけは不快な思いをしなかった前回。確かに今回も同じとは限らない。

「でもまだ会社の前だし……」
「あっ、それもそうだね。じゃあやめておこうか」

 そう言われた途端、胸がチクリと痛んだ。遠回しに断ったのは自分なのに、何故か寂しくなる。

「あの……やっぱり確認してみてもいい?」
「もちろん」

 愛梨はおずおずと楓介の手に自分の手を重ねる。ふんわりと包み込むような感触が心地よくて、ほうっと息を吐いた。

「うん、大丈夫みたい」

 すると楓介も安心したのか、にっこりと微笑んでから愛梨の手をきゅっと握りしめる。

 誰かに見られているかもしれないという緊張感と、男性と手を繋いでいるというドキドキ感が重なり、愛梨の心臓はとてつもない速さで打ち始めていた。

「手を繋ぐ練習をしながら家まで歩いていこうよ」

 これは手を繋ぐ練習なのだと自分に言い聞かせるが、やはり男性と手を繋ぐことに慣れていない愛梨は、緊張して固まってしまう。

「固まってる愛梨、可愛いんだけど。練習だからさ、ゆっくり慣れていこう」
「が、頑張る……。でも楓介くんって、どうしてこんなに簡単に手を繋ごうとか、そういうことが言えちゃうの? やっぱり海外にいたから?」
「俺なんか変なこと言った?」

 キョトンとした表情で愛梨の顔を覗き込んだのを見て、本人に自覚がないことを知って苦笑する。

(これは彼にとって自然なことなんだ……)

 それは彼が誰にでも優しい人間なのだという証明である気がして、心のどこかでホッとした自分がいた。

 自分だけが特別なのではないと知ることで、他の人がそうしているように、愛梨自身も安心して彼を頼ることが出来る気がした。
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