とろけてほどけて愛になる〜友達の恋人の友達は、私を癒して甘やかす〜
(自分が弱い人間だっていうのはわかってる。でもそれが私だし、たぶんずっとこの先も変わることはないの……)

 二人の間に沈黙が流れる。愛梨は彼の顔を見るのが怖くて、顔を上げることが出来なかった。

(楓介くん、きっと呆れたよね。もうこれで会うのも最後かな……)

 そう思って、繋いでいた手を離そうとした時だった。

「わかった」

 感情を読み取れないような楓介の声が、愛梨の耳に静かに到達する。

「先週の帰り際、俺にお返しがしたいって言ったの、覚えてる?」

 その時のことを思い出し、愛梨は恥ずかしくなって目をギュッと閉ざした。

 限界を迎えていた愛梨を解放してくれた楓介に、お礼をするつもりで発した言葉が、こんなふうに返ってくるとは思いもしなかった。

「それ、今から返してもらおうかな」

 愛梨が反応するよりも早く握られていた手を引き寄せられ、愛梨の体は楓介に抱き止められる。

 そして耳元に息を吹きかけられ、腰が抜けてしまった。

「このまま帰しても、愛梨は良くないことばかり考えて、一人で勝手にどん底に落ちちゃうだろうからね。だから俺が何も考えられないようにしてあげるよ」

 楓介が何を考えているのかわからず、心は不安でいっぱいになっていく。それとともに、愛梨の心臓が早鐘のように打ち始める。

 恐る恐る顔を上げると、いつも笑顔だった楓介が、無表情のまま愛梨を見下ろしている。

「あの……大丈夫だから……これは私のことだし、楓介くんは気にしないで──」

 言いかけた愛梨の手を引いて、楓介は再び歩き出す。

「ついてきて」

 彼に強く手を握られているため、振りほどくことは無理だった。しかも先ほどのことがあったからか、彼は足を止める気配すらない。

(どこに行くつもりなんだろう……)

 不安を抱きながら彼について行くと、いつの間にかオフィス街へ入っていた。

 そして目の前に一軒のホテルが現れ、楓介は躊躇いもなく早足に中へと入っていく。

(えっ、ホテル……?)

 戸惑いを隠せずにいる愛梨をよそに、楓介がフロントで小声で何かを伝えると、渡されたカードキーを持ってエレベーターへと向かう。

(このホテル知ってる……。確かうちの会社の系列のだったはず。夜景が綺麗に見える場所って、よくテレビとか雑誌で紹介されてた……)

 周りに意識を向けると、旅行客と見られる人々に加え、デートでやって来たカップルも多かった。

 これから起きようとしていることが、愛梨の想像通りなのかはわからない。それでも今この状況で、二人きりでホテルに入るのは不謹慎な気がした。 

 しかし頭で考えている間に、到着したエレベーターに連れ込まれてしまう。

 楓介に言いたいことがたくさんあるのに、他にも客がいるエレベーターの中で話すのは良くないと思い、口をギュッと閉ざした。
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