とろけてほどけて愛になる〜友達の恋人の友達は、私を癒して甘やかす〜
* * * *

 愛梨は自分の目に映ったものが信じられず、ただ呆然とした。それは相手も同じで、(せわ)しない会議室の中で、二人だけが時間が止まったかのように微動だにしなかった。

 スラリとした体に白いワイシャツにブルーのネクタイ、グレーのパンツに身を包んだ楓介の背後から、更に背が高い端正な顔立ちの男性が彼の背中を押す。

「どうしたんだ?」

 そう問いかけられ、楓介はハッと我に返り、「なんでもないよ」と答えて正面の席に腰を下ろした。

 楓介の後ろから部屋に入ってきたのは、広報誌で目にしたことのある専務であることは間違いない。

 だが今の愛梨の胸を占めていたのは、何故ここに楓介がいるかということだった。

 下を向き、混乱する頭をなんとか落ち着かせようとする。

(どうして楓介くんがここにいるの? この近くで打ち合わせをしているとは言っていたけど、それがここだったということ……?)

 想像もしなかった偶然に、愛梨の心臓が激しく打ち続ける。

(楓介くんは私がこの会社の者だって知ってたの?)

 ちらっと楓介に目をやると、彼も俯きがちに目線だけ愛梨に向けていた。その表情は戸惑いに満ちていて、彼が愛梨がここいることについて知っていたとは思えなかった。

 その時、楓介の隣に座っていた専務が立ち上がり、ぐるりと全体を見渡した。

「本日は急な召集にも関わらず、お集まりいただきありがとうございます。ブルーエングループ専務の津山(つやま)尋人(ひろと)です。たぶん皆さんと話をするのは初めてかと思いますが、これからお店のオープンに向けて一緒に頑張っていきましょう。よろしくお願いします」

 専務の名前を聞いた途端、愛梨は勢いよく頭を上げた。

 目線だけで楓介と尋人を交互に見てみれば、確かに雰囲気が似ているようにも思える。

(そうよ、どうして気付かなかったんだろう……。楓介くんも専務と同じ"津山"じゃない!)

 楓介は何か言いたげに尋人の方を見るが、相手にしてもらえないとわかると、困惑した様子で俯いた。
< 83 / 97 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop