腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
「東郷部長が呼んでいると言うのは嘘です」
 囁かれた言葉に目を瞬かせていたら、エレベーターが到着した。ふんわりと微笑む鹿波さんが、中へどうぞと手で示してくる。
 そうだ、動揺している場合じゃないよね。
 軽く頭を下げ、エレベーターに乗り込んだ。
「助けてくださったんですね。ありがとうございます」
 お礼を伝えなければと思い、とっさに口にする。
「実は私も萌音さんと同じような状況なので、勝手に仲間意識を持ったというか」
 それはつまり、鹿波さんも親に縁談話を持ち掛けられているということ?
 鹿波さんほどのハイスペックな男性なら、引く手あまたな気がするけれども。
 相手がいないことが意外すぎる。
 それにしても、極上のイケメンとエレベーターという密室空間にふたりきり。これは恋愛漫画の世界では、なにかしらあるシチュエーションではないか。
 エレベーターがなにかしらの問題で緊急停止して、中に閉じ込められて救助を待つとか? もしくは壁際に追いやられて、甘いまなざしで見つめられてキスとか?
 そんな神展開は現実ではありえないが。分かっているが。
 妄想は止められない。
 家に帰ったら、推し作家さんの最新刊を読んでキュンを摂取しよう。
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