腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
ロビンソンで笹倉さんの相談を受けてから、およそ一週間あまり。
私は仕事終わりにとある人物と会うため、ホテルのラウンジにいた。奇しくもここは四年前、俊さんに婚約破棄された場所である。
なんという偶然か。
変わらずピアノの優雅な旋律が流れている。それを聴いていると、あの日の記憶が蘇ってきて胸がチクリと痛む。だが、今は感傷的になっている場合ではない。
かわいい後輩、笹倉さんのために問題解決に尽力しなくてはならないのだ。
ぎゅっと拳を握り、己を奮い立たせる。そして静かに息を吐いてから、ターゲットが座る席へと近づいた。
「小酒井先生、お待たせして申し訳ありません」
笑顔で声をかけると、小酒井先生は怪訝そうに眉を寄せながら私を見上げてきた。
「君と待ち合わせた覚えはないが」
苛立ちを含んだ声が耳に届き、その直後、盛大に溜め息を吐いた彼は、私の担当病院のドクターではなく、笹倉さんが受け持つクリニックの内科医である。
年齢は四十代。見た目は物腰が柔らかく温厚そうに見えるが、感情の起伏が激しい。昔よりもその傾向が強くなっている気がする。
私がMRとして働き始めた頃、先輩に付いてこのエリアを担当していたことがあるので、小酒井先生は私の顔を覚えていたようだが。
……どうやら笹倉さんとは正反対な私は、彼のタイプではないらしい。
笹倉さんの相談とは、このドクターに個人的な食事の誘いを受けて困っているという内容だった。ずっとやんわりと交わしていたようだが、ついには笹倉さんの態度次第では城崎製薬との取引を考え直すかもしれない……などと、遠回しに脅しをかけられたらしい。
なんて卑劣な。
妻子持ちのくせして、この男はいったいなにを考えているのか。
「失礼いたします」
はらわたが煮えくり返りそうだが、笑みを崩さず対面の席に腰を下ろした。
私は仕事終わりにとある人物と会うため、ホテルのラウンジにいた。奇しくもここは四年前、俊さんに婚約破棄された場所である。
なんという偶然か。
変わらずピアノの優雅な旋律が流れている。それを聴いていると、あの日の記憶が蘇ってきて胸がチクリと痛む。だが、今は感傷的になっている場合ではない。
かわいい後輩、笹倉さんのために問題解決に尽力しなくてはならないのだ。
ぎゅっと拳を握り、己を奮い立たせる。そして静かに息を吐いてから、ターゲットが座る席へと近づいた。
「小酒井先生、お待たせして申し訳ありません」
笑顔で声をかけると、小酒井先生は怪訝そうに眉を寄せながら私を見上げてきた。
「君と待ち合わせた覚えはないが」
苛立ちを含んだ声が耳に届き、その直後、盛大に溜め息を吐いた彼は、私の担当病院のドクターではなく、笹倉さんが受け持つクリニックの内科医である。
年齢は四十代。見た目は物腰が柔らかく温厚そうに見えるが、感情の起伏が激しい。昔よりもその傾向が強くなっている気がする。
私がMRとして働き始めた頃、先輩に付いてこのエリアを担当していたことがあるので、小酒井先生は私の顔を覚えていたようだが。
……どうやら笹倉さんとは正反対な私は、彼のタイプではないらしい。
笹倉さんの相談とは、このドクターに個人的な食事の誘いを受けて困っているという内容だった。ずっとやんわりと交わしていたようだが、ついには笹倉さんの態度次第では城崎製薬との取引を考え直すかもしれない……などと、遠回しに脅しをかけられたらしい。
なんて卑劣な。
妻子持ちのくせして、この男はいったいなにを考えているのか。
「失礼いたします」
はらわたが煮えくり返りそうだが、笑みを崩さず対面の席に腰を下ろした。