腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
 小酒井先生がラウンジを出て行ってだいぶ経つが、まだ戻ってこない。
 もしかして、電話相手と修羅場?
 もしくはそのまま帰ったとか?
 いずれにせよ、ずっとここにいても埒があかない。
 ひとまずラウンジを出て、小酒井先生が歩いて行った方に歩みを進めていく。するとロビーの片隅にあるパブリックスペースの前で誰かと話す彼を見つけた。
 相手はスーツ姿の長身の男性のようだが、こちら側からだと顔が見えない。
 気づかれないようにそっと近づく。
 大きな観葉植物の陰からその様子を窺うと、会話が聞こえてきた。
「あれはれっきとしたセクシャルハラスメントですよ」
 どこかで聞き覚えのある声だと思った。
 突如として沸き起こってきた好奇心。それが抑えられそうにない。
 相手の顔を確かめようとゆっくりと観葉植物ゾーンを突き進んでいく。
「セクハラ? まったく証拠もなしにこんないいがかりをつけてくるとは非常に遺憾だよ。本当にお宅の製薬会社は、あの生意気な女といい、あんたといい、ろくでも……」
「本当にクズだな、おまえ……」
 凄みを含んだダークな声色が鼓膜を震わせたのと、私が相手の顔を確認できたのは同じタイミングだった。
 嘘でしょう?
 思わずそんな言葉が飛び出そうになり、慌てて口もとを押さえる。
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