腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
 小酒井先生と話していた人物は、鹿波紫苑弁護士だったのだ。
 どうしてここに彼がいるの?
 という疑問よりも、いつもと雰囲気が違い過ぎて面喰らってしまった感じだ。
 だって私が知る鹿波さんは、物腰が柔らかくて穏やかで優しい人物である。
 それなのに、これはどうしたものか。
「あんたがラウンジで梓川萌音の胸倉を掴んでいる様子が、この動画に克明に残ってる。このような行為をする理由がどこにあるんだ? まだしらばっくれるなら、今から警察とあんたの奥さんを呼んでもいいが」
 スマホの画面を小酒井先生に提示しながらゴン詰めする目の前の彼は、口調がきつくオラオラ系。まさにアンビリバボーである。
 もしかして、あれなの?
 鹿波紫苑、双子説!
 でも、だとしたら、双子の片割れは私のことなど知らないはず。
「わ、分かった。認める。それからさっき君に提示された条件を呑むから。妻をここに呼ぶのは勘弁してくれ。梓川さんにも謝罪するから」
 さっきまでの威勢は、いったいどこに行ってしまったのか。
 へこへこと何度も頭を下げ、平謝りする小酒井先生がそこにいる。めちゃめちゃカッコ悪い。
 おそらく家では、奥様の尻に敷かれているのだろう。
「では、今後、笹倉に個人的なコンタクトを取らないこと、そして、担当替えの件、了承していただけますかね?」
「はい。弁護士さんの言う通りにします」
 笹倉さんの件はこれで一件落着するのかもしれないが、なんだか見てはいけないものを目撃してしまった気分である。
 盗み見していたことが鹿波弁護士にバレたら、それはそれで会社で顔を合わせた時に気まずくなる予感しかない。
 そう思った私は、そっと踵を返した。
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