腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
 私がラウンジに戻ってから程なくして、小酒井先生が戻ってきた。
 そして、『いや~、さっきは興奮しすぎてしまって、失礼なことを言って本当にすまなかった。申し訳ない』と、人が変わったかのように何度も何度も謝られた。
 それに加え、笹倉さんとは今後一切連絡を取らないし、薬も今までどおり採用し続けることを宣言し、彼は逃げるようにラウンジを出て行った。
 まさに鹿波弁護士、恐るべしである。
 それにしても、彼にあんな二面性があるとは。
 テーブルに置いてあるティーカップを見つめながら、静かに息を吐く。
 まぁ、結果として笹倉さんは安心して働けるようになるわけだし、結果オーライか。
 私が鹿波さんの二面性を見なかったことにして、会社で今までどおりやり過ごせばいいだけの話である。
 そもそも、日常業務で鹿波さんと関わることなんてほぼほぼない。ならば、なにも困るような問題はないのではないか。
 紅茶を飲み干し、席を立って歩き出したその瞬間だった。
「もしかして、萌音さん?」
 横から届いた声が誰のものかすぐに察しがつき、思わず肩をビクッと震わせてしまった。すでに帰ったものだと思っていたから、完全に油断していたのだ。
「……あ、あれ? 鹿波さん。こんばんは。こんなところでお会いするなんて奇遇ですね。ははっ」
 とにかく普通にしなくては。
 必死に平静を装い、口角を上げてみる。
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