腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
「喉、乾いていませんか? 少し休憩しましょう」
 なんというグッドタイミングだろうか。
 おそらく弁護士という職業柄、表情や仕草からその人の考えていることを察する能力が高いのかもしれない。
 こういうところはさすがだと改めて感心する。
「お気遣いいただきありがとうございます」
 ウーロン茶グラスを受け取り、お礼を言ってから口をつけた。ふと会場の左端に目を向けると、バーテンダーにドリンクを頼んでいる男性の姿が視界に飛びこんできた。
 途端に心臓が早鐘を打ち始め、手に持つグラスを滑らせそうになってしまう。
 見間違えるわけがない。
 あれは……元許嫁の俊さんだ。
 仕立てのよさそうな濃紺のスーツを着こなす彼が、昔私の前で見せていたような穏やかな笑みを浮かべていた。
 彼がこのパーティーに参加していたなんて最悪すぎる。
「萌音さん、どうかしました? 具合でも悪い?」
 紫苑さんが心配そうに私の顔を覗き込んできて、ハッと我に返った。
 どうやら動揺が表情に出てしまっていたらしい。
「……いえ、なんでもないです」
 必死に口角を上げながら私は願う。
 どうかどうか、俊さんが私に気づいていませんように。
 そして、何事もなくやり過ごせますように、と。
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